やっと見つけたと思ったら、これはどういうことなんだ。
俺は疚しい夢を何度も見るけれど、こんなむちゃくちゃな光景が現実だって言うのなら、俺の夢だっていつか実現するかもしれない……
いや、そんなことを考えている場合じゃ……ない……
おまえ……
なんで、俺の見てないところで、知らない間に、そんな恰好して……
どこのどいつだ、俺の目の前でこんなふざけた真似をするのは。おまえもおまえだ、いるか。なんで黙ってそんな……きれいな……真っ白な……
現実だってことは分かる。――抱きしめた体は、確かにいるかのものだったから。
いつか、同じことがあった気がする。
俺の名前を呼んでまっすぐ飛び込んできた、とんでもない女。
あの時は、泣きながら……そして今は、信じられない姿をして……
「春海……!!」
むちゃくちゃでも、でたらめでも、ふざけていても、そんなのは後のことだ。
つかまえると言ったら俺は絶対つかまえる――どうだ? 俺はその通りにしただろ?
だからもう、行くな。どこにも行くな。
もう嫌だ、置いていかれるのは。……頼むからここに戻ってくれ。
そう、ほら、こうして腕を伸ばすから……
飛んで来い!
「いるか!」
真白の花嫁、白い羽根、白い綿帽子……舞い散る簪の花。
何なんだろう? この非現実的な光景は。
でも、おまえは、俺の、いるかだろう?
やっぱりおまえに、俺が見つけるまでおとなしく待ってろなんて思ったのは間違いだったな。そもそも、逃げた理由を俺は知らない。
でも……それも後の話だ。
見つけた。
見つけた――やっと、つかまえたぞ。
春海、ごめんね、といるかが俺に抱きついたまま言った。
言うべき言葉を探したけれど、何も言えなかった。
ばか、とだけ呟いて強く抱きしめると、腕や指に絹の感触。
顔を覗き込むと、薄化粧に赤い唇。
……本当に、何がなんだか分からない。夢みたいに脈絡がなくて、辻褄も合っていなくて……それでも確かに、ここにいるのは俺の探していた迷子だ。
金が尽きても戻ろうとしない、頑固で自分勝手な……
行き当たりばったりの……計画性のまるで無い……
それでいて、行動力だけは桁外れで。
出て行った理由はまだ知らないけれど、そんなおまえを探さなきゃいけない俺のことも少しは考えろよ……
でも、いい。見つけたから。
俺を見て、名前を呼んで飛び込んできた。だから、もういい。
◇
そして……奇妙な夢はまだ続いていた。
それぞれ持ち込まれた迷惑な縁談の相手が、実はおまえだった。
そして、おまえが逃げた理由は俺だった。――こんなおかしな現実ってあるものだろうか。でも、もしも本当なら……
いるかは俺から逃げ回ってた、ってことか……
「……」
「……」
顔を見合わせて、笑うことしかできなかった。
はじめから分かってれば家出なんかしなかったのに、といるかは笑った。
笑いすぎて、目に涙をためて。
だから俺も言った、自分の今の気持ちを。
黙って消えるな。ひとりで逃げるな、俺を置いて行くな。何かあるなら相談しろ、親に言えなくても俺には言え――ごちゃごちゃと頭の中にある感情を集約すれば、それはたった一言だった。
「……る」
「……」
「……愛してる」
「……」
「愛してるよ」
白い残像が浮かんでは消え、それは本当に夢の中。
あれは花嫁だったのか、鳥だったのか。
……まあ、どっちでもいいさ、つかまえたから。
この手でつかまえたんだ。
また、どこかに飛んで行くかもしれないけど、今回のことで身に沁みて分かっただろう。俺が相当、執念深くて諦めが悪いってことを。
当分、俺は自分だけの身勝手な夢に浸ることもできない。
これからきっと、現実が目まぐるしく動いていく。大人たちに言いたいこと、聞きたいことが山ほどある。
……言いたいことを言った後は、もっと激変するだろう……
だから、今は。
しばらくは、この鳥の捕縛者として――ただ見つめていようと思う。
だけど、あの白い姿が目に焼きついて、俺じゃない誰かのために――たとえ芝居でも――あんな恰好をしたなんて、この点だけはちょっと許し難い、かもしれない。
空に飛んでいった鳥を再びつかまえる。こんな奇跡のようなことを果たしたのに、今夜から俺は、また新しい悪夢にうなされそうだ。
*****
不憫フィルターを外すと、家出編の春海はかなりシリアスです。
読者(=私)が「振り回されちゃって可哀想に……」と思っても、本人はひたすら必死で、家出姫を探して見つけることしか考えていない訳ですから……
置いていかれることへの精神的外傷もありますし。
「My Pray」の続編のような、「保護者様 お引取り」の春海一人称のような……? そんな感じの、中途半端な文章でした。
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