久しぶりに、倉鹿に帰ってきた。
(と言ってもあたしも春海も、家出事件の時に一度は帰ってるんだよね。まあ、別々にだけど)
週末を利用した二泊三日(実質、一泊は車中)の強行軍なので、野球部で疲れている春海を付き合わせるのは悪いなあ、と思ったんだけど、あっさりと「サッカーで疲れてるおまえに言われたくないね」と返された。
じいちゃんとおばちゃんに会いに行って、ここでもやっぱり説明しなきゃいけないことが多すぎて、あたしと春海は「こんなに何度も言わなきゃいけないなら、台本を作って来ればよかった」と言い合った。
今日は男子、女子に分かれて別行動。
あたしは湊と博美で、そして春海は進や一馬、兵衛たちと「男の話」をするんだって。
なんか、分かるような分からないような。
春海は「あいつら、もう完全にネタ扱いしてやがる」とちょっと困ったように言いながらも、それでもやっぱり嬉しそうではあった。
長い間の親友同士、久しぶりに会うんだもん。
話したいことは山ほどあるんだろうね。
あたしも同じだしさ。うん。
湊も博美も変わっていなくて、二人を見ると、ああ、倉鹿に帰ってきたんだなあって思う。
ほっとする。
今日は三人だけど、明日は銀子やお杏とも会えるし。
話題はやっぱり、あたしの家出事件に集中した。
「オチ」を聞くたびに、二人は笑いこけた。
(まるであの時の、あたしと春海みたいに)
「追いかけてった山本くんのこと考えたら、わ、笑っちゃだめなんだけど……もうそれ、そんなの、出来すぎで……ああ、おかしいっ」
湊に至っては、机を叩きながら笑い転げている。
そこまで面白がってくれるなら、あたしも家出した甲斐があったと思うぐらい受けちゃってる。
「山本くんって絶対、寿命が縮まってるよ、それで!」
博美も口元をおかしそうに歪めて、あたしに言った。
「二人とも、ちゃんとお父さんから話聞けば良かったんだよ。そうしたら、絶対気づいたのに」
「そうだけどさあ、普通、そんなの思いもつかないよ。高1で見合いってだけで、何考えてんだ、冗談じゃないよって思うのにさ」
「うーん。まあ、確かに早いよねえ……」
「そうだよね!? 早すぎるよね?」
「でも、まあ、山本くんにしてみたら笑い話になって良かったってところだろうね」
湊がやっと笑いから立ち直って、しみじみと言う。
「見合い相手が自分じゃないってことになったら、きっと発狂するよ。彼」
「そ、そんなことはないけどさあ……」
「ううん、いるかちゃん、ほんとだよ。山本くんの愛を軽く考えすぎ」
博美が心底、恐ろしそうに肩をすくめた。
「あ、あい……」
あたしは絶句してしまう。
実際、そう言われたばかりだから、余計に絶句するしかないよ……
「山本くん、今頃きっと、太宰くんたちに相当からかわれてるだろうねえ……」
「て言うか、一斉攻撃だと思うなあ」
博美と湊は顔を見合わせて、ふふっと笑った。
「あたしたちは、これ以上詳しいことを根掘り葉掘り聞きまくったりしないし、いるかちゃんをいじめたりしないからねー」
……わあ、いじめる気まんまんの笑顔だ。
やだなあ。もうなんか、この数週間で何回赤くなったり青くなったりしたのかなあ。
東京を出る前に、春海が「言っとくけど、今度のことじゃ俺もおまえも盛大にからかわれるぞ。ネタにされるぞ。一生語り継がれるぞ」と脅したけど、確かにそれは当たっていた……かもしれない。
でも、博美と湊がその日、いちばん面白がってくれたのは……
あたしの、(倉鹿の頃と変わらない)底なしの食欲のことだった。
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続く、かもしれない。
[13回]