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こちらは、大昔の少女マンガ「いるかちゃんヨロシク」をお題とした二次創作ブログです。目指せ! 春海しあわせ計画。 ☆絵と文章:小林りり子☆ ★閲覧の際はご注意下さい★ 激しくポエム、激しく自家発電、激しく自分絵(らくがきレベル)。突然、時系列をワープする無節操さ、唐突なファンタジー設定、微妙にR18要素あり。
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 140字と謳いつつ140字をオーバーする場合もあります。というか絶対オーバーします。

 当地大阪もやはり、尋常ならざる現状であるという該当都道府県入りしてしまいました。しかし冷静になりましょう。宣言と都市封鎖は別物ですし、流通も健在です。
 危機意識をこれまで以上に引き締める機会です。強く生きていきましょうね。

 皆様に少しでも「毎日更新」のお楽しみをご提供できればいいなと願いつつ、どのカテゴリーに入れるべきか悩みまして、一応家出その後ではありますがパスワード制限はなしで行きます。
 この小説のタイトルは最後に明かされます。
 何日続くか正直私もわかりませんが、ツイッター風140字の小刻み掲載なら当分は大丈夫かと……
 すでにストックが有り余った状態ですので。
 ※更新はこの記事内にて行いますので、更新日(時間)を入れています。


拍手[13回]





「主将、今いいですか?」
 一年生の後輩が、ロッカールームで制服に着替え終わった主将に声を掛けて来た。
「ああ」
 東条巧巳はまだ着替えている最中で、他の部員はもういない……という状況だ。
 珍しいこともあるもんだ、という素振りも見せずに巧巳は彼らの会話を聞き流している──ように見える。
(4/6 19:00)

 山本主将は特別なことでも何でもない、といった風情で、しかし、鋭い巧巳には十分にそれが伝わってきた。主将が後輩に何らかの指示をしたことが。恐らくは目配せなのだろう。
「例の件ですけど──」
「ああ、分かってる。俺もすぐ支度終わるから、先に昇降口に出ててくれるか?」
「はい、もちろん」
「悪いな。戸川」
「とんでもないっす。すげえ嬉しいですよ」
 後輩は巧巳にもお疲れ様でした、お先にと挨拶して部室から出て行った。
(4/7 0:30)

 当然、二人だけになった野球部の部室には妙な沈黙が流れた。
 春海は黙々と帰り支度を済ませ、鞄を持ち上げる。
「じゃあ、俺は出るけど」
 巧巳も手を挙げた。
「俺も終わった。とっくにな。……それで?」
「何が」
「あいつに何の用があるんだ? 主将がわざわざ」
 巧巳はしばし、考え込む仕草を見せる、
「何か問題どころか、今年の新人の中じゃ相当頼もしい実戦要員だしな。俺の見落としか? おまえだけ気づいたことでもあったか?」
(4/8 14:00)

「東条先輩が気づかないことを俺が見抜けるとでも?……そういう用事じゃないよ」
「ふうん。じゃあ、俺としては次に『だったら何の話だ?』って聞かざるを得ないよなあ?」
 春海はため息をついた。
「猫」
「あ?」
 予想外というか、何処から飛んできたのか見当もつかないと言った様子で巧巳が繰り返した。
「ああ?」
(4/9 0:30)

「なに? 何だって?」
「おまえ最近、徹と会ったか? 巧巳」
「いや、ここ最近はあんまり……徹も塾で忙しいだろ。おい、だから何の話なんだよ」
 秀才なら秀才らしく順序立てて話せと促されて、春海はまたも息をついて話し出した。
 初秋と言うよりはまだ残暑の領域であろう季節。部室から生徒出入口までの短い距離。
(4/10 1:30)

 そもそもの発端は、巧巳の妹が昔から憧れていたことだった。
「その……俺が直接おまえに言っていいのかどうか。でも聞かれたから答えるぞ。正美ちゃんは前から猫を欲しがってたって徹が聞いてたんだよ」
「……」
 巧巳は立ち止まって、口をぽかんと開いた。
「……ああ……なるほど。そういう順番かよ」
「そう」
「でも、かなり昔のことだぜ。入院退院を繰り返す前のことで──ちょうど……」
「おまえん家が、離婚した時から。……だろ?」
(4/11 12:00)

「まあな。……あの頃はやたら、猫だけじゃなく犬も鳥も、うさぎでもハムスターでも飼いたい飼いたいって言ってたな」
「でも、正美ちゃんの体のことを考えたら難しいよな」
「ああ。出来ることなら、俺もそうしてやりたかったけど……ん? 戸川を待たせて大丈夫なのか」
「すぐ終わるし」
 春海は周囲を見渡し、花壇の隅に申し訳程度に据えてある小さなベンチへと巧巳を誘った。
(4/12 16:00)

 二人はとりあえず、腰を下ろす。
 巧巳は長い前髪を引っ張りながら続けた。
「あいつもさ──お蔭様で──今じゃそれなりに元気になったけど、そうなると外の世界に目が行くのが自然じゃねえか。何より山本さん家の次男と昵懇になっちまってよ……まったく、こんな早く……兄貴と似てるんだろうなあ、そういうところ」
「最後まで聞きたいのかそうでないのか、どっちなんだ」
 明らかに脱線しつつある巧巳の愚痴を遮って、春海が腕組みをした。
「こうなったらもう、直接おまえの案件にしろよ。俺は徹の依頼を受けただけなんだし」
(4/13 1:00)

「ちょっと待て待て。法曹様、見捨てるなよ」
「いや、別に、見捨てるも何も……どうせおまえには近々言おうと思ってた。何しろ、おまえの妹のことなんだから。ああ──戸川にどういう関りが?って顔が言ってるぞ」
「分かってるなら全部言え。いやいや、是非とも教えていただけませんでしょうか? その後輩も待たせてることだしよ」
 巧巳は春海の膝を軽く叩いた。
「結論だけでいいから」
「だから、あいつの家は猫を飼ってるんだよ。経緯は中略で、とにかく、実際正美ちゃんに家に来てもらってもいいし、それが無理なら写真やビデオでも何でも見て下さいって」
(4/14 1:00)

「……それ、実質は徹の指示なのか? おい」
 少々面白くなさげに巧巳が呟く。
「俺をすっ飛ばしてもう旦那気取り──いやいや、冗談。ご配慮有難いってなもんだ」
 春海の視線を感じたのか、巧巳はすぐに言い直した。
「でもなあ、俺としては……実際見て可愛いって思っても、やっぱり今のあいつじゃ難しいから……見ちまったら辛くなんねえかなあって……まあ……よその猫でもさ」
「でも逆に、家じゃ到底無理って分かってるからよその猫でも見たいって思うこともあるんじゃないか?」
(4/15 1:00)

「そうか、まあ……そういうことも、あるか……うん」
「正美ちゃんだって、自分の体調を考えないで我儘を言う子じゃないだろ? 兄貴のおまえがいちばん知ってるよな」
「まあ、なあ」
 巧巳は考え込んでしまったようだ。
 そうと見て、春海はベンチから立ち上がった。
「そろそろ行くぞ。そういう訳で、大方の話は分かったな?」
「分かったけど、今さら俺が承知したところで話はもう進んじまってんじゃねえか」
(4/16 19:00)

「妹がいるってのも、大変だな」
 ふと、春海が言った。同情的な口調だったかもしれない。
「大変だぜ、そりゃあもう。おまえには一生分かんねえだろうよ」
「同い年の従姉妹はいるんだけどな……」
「従姉妹ねえ。たまに会う親戚と妹じゃ別物だっての」
「……まあ、そうかもな」
 巧巳はその辺の春海の事情を深く知らないので、軽く往なして肩を竦めるだけだ。
(4/17 1:00)

 歩き出してすぐ生徒昇降口が見えてきた。
「ここです、主将! 東条先輩も」
 野球部の後輩だけあって──何せ、春海と巧巳が即戦力だと評すほどの人材らしいのだ──顔つきはまだ少年めいているが体格は立派なものだ。
 春海が手を挙げた。
「戸川、待たせたな」
「いえ」
「巧巳にも今話したから、本物の兄貴と話し合ってくれるか?」
「ええ?」
 後輩は思わず巧巳を見て、それから再び春海に視線を戻す。
(4/18 0:30)

「俺の妹のことで、煩わせてるんだって? 悪いな」
「い、いえいえ。そんなことは──」
「まったく。後輩を無駄に怯えさせんなよ」
 巧巳は春海を見て、肩を小突く。
「まだ俺、そんなに怖えか? 穏便になったつもりなんだけどなあ」
「穏便ね──まあいいだろ。それで……兄貴としてはどうしたい? 戸川は家に招待とまで申し出てくれてるけど」
「え? 俺が即決すんのか、今この場で。それこそ正美の希望を聞かないと……」
(4/19 0:30)

「それは話し合いによるだろ。正夢ちゃんの体調、東条兄妹の時間のある日……戸川の家の都合。どれが欠けても実行不可能」
 もともと今日はいるかとは別行動と決まっていたのだろう。放課後の春海は人を探すようでもなく、今の成り行きを見守っている。
 彼のことだ。今日の話も巧巳抜きで勝手に進める気などなく、こうなることは想定内だったという訳だ。──巧巳はじろじろと春海を見て、わすかな反抗を試みる。
「ひとつ抜けてるぜ」
「何だ?」
「徹の都合。どうせあいつも付き添いだろうが」
(4/20 0:30)

「怖い兄貴の許可次第だな。俺は口出しする気はないし」
 少し笑って、春海は返した。
「弟だからってそこは介入なし、ある種の試練ってもんがあるだろ。親も兄弟も一切手助けできない類の。──あいつは何も、おまえを出し抜こうとしてる訳じゃないし、自分の立場も弁えてる。それぐらいおまえも分かってるはず……だと、実の兄としては思いたいんだが」
「ふん、まあな。おまえの弟だからな、何しろ」
(4/21 20:00)

 それ以上言い募っても意味がないと悟ったのか。
「じゃあ──妹に今日聞いてみるよ。返事は明日でいいか?」
 とにかくこの場で何らかの答えは出すべきで、巧巳は後輩にそう言った。
「はい、それはもういつでも。あ、でも実は今も写真持ってますよ」
「へえ! そうなのか? 見せてくれよ」
「どうぞ」
 戸川少年は生徒手帳をさっと取り出した。中に挟んでいた写真を巧巳が受け取り覗き込む。春海も同時にそうした。
「……こりゃあ可愛いなあ、想像以上に! 子猫か」
(4/22 0:30)

 写真には、戸川らしき手に撫でられてぷっくりとした腹を天井に向け、きょとんとこちら──カメラの方向──を見つめる子猫の姿があった。
 大きな目は青色で、安心しきっているのだろう、ひっくり返った態勢に笑みを誘われるような風情だ。
 模様が面白い。縞が全身に入っているのだがところどころ色が違う。全体的には薄い灰茶色の子猫だ。しかし腹部を覆う毛は、黒の縞模様以外の大部分は白に近い色をしていた。
「これって何て言う種類の猫?」
「キジトラです。先輩」
「オス? メス?」
「雌っすね」
(4/23 1:00)

 巧巳の言葉はいかにも片仮名で聞こえたが、戸川の声には生物学上の区別で呼び分けているような空気があった。──春海は戸川の顔を一瞬見て、そしてまた視線を戻す。
「これは生後二か月ぐらいの時で、今はもうちょっと大きくなってますけどね」
「名前は?」
 巧巳が後輩に話しかけている間、春海はなぜか奇妙な目でじっと写真を──巧巳が手にしたままの──眺めていた。
「ミルっていいます」
(4/24 20:00)

「ふうん……俺、ペットの名前って全然分からねえんだよな。今時は犬でもポチとはつけないって感じ?」
「いやあ、どうでしょうねえ。その家に依るっていうか……うちのは、これ、フランス語なんすよ。一応」
 春海が顔を上げた。
「じゃあ、数字の千のことか。ミル……『Mille』?」
 戸川は頷いた。
「そうです、そうです。主将はさすがっすね──」
「俺は大したことなくて悪かったな」
(4/25 1:00)

「あ、俺、そういう意味じゃ」
「冗談だって」
 焦る後輩に、わざとらしく咳払いしつつ巧巳は笑った。
「こりゃ絶対、妹は本物見たがるぜ。犬猫とか興味ない俺でも思うしさ」
「そ、そうですか。だったら余計にご招待したくなりますよ、先輩」
「春海もすげえ興味があるみたいだし?」
「……」
 巧巳は会話中でもきっちり、春海の行動を掴んでいたのである。
「おまえが猫好きなんて意外」
(4/26 1:00)

「別にそういうのじゃないよ。子猫なんて滅多に見かけないから珍しいし……確かに、可愛いな」
 春海は、巧巳ではなく後輩に笑いかけた。飼い主への称賛という訳だ。──この人たらし、という様子で巧巳は口笛を吹く。
 その証拠に、明らかに後輩は光栄至極といった面持ちだった。
「まあ、可愛いもん嫌いな人間なんて滅多にいないし。高校生の野郎が見たって可愛いもんは可愛いよな」
(4/27 0:30)

 とりあえず、放課後の話し合いはそこで終了した。戸川少年はお先に失礼します──と運動部部員に相応しく礼儀正しい挨拶をして、巧巳と春海より先に校門を出て行った。
「まったく、今日いきなり全部突っ込んできやがって。何の話かと思ったら……」
「後輩だからな、相手は。ある程度は前振り……段取りをしてやらないと」
 春海は平然と返したが、巧巳の顔を見てちょっと笑った。
(4/28 1:00)

「質問があるんだな? その顔」
「あるに決まってんだろ。そもそも何でおまえが、戸川が猫飼ってるなんて知ってるんだよ。いつの間に? 正美のことが徹経由なのは分かるけど……」
「偶然と必然が重なることだってあるだろ。世の中には」
「……」
「まず俺は──おまえのご指摘通り、徹経由で──正美ちゃんが猫でも犬でも飼うのが夢だって知ってた」
 鞄を抱え直しながら、春海は続けた。
(4/29 1:00)

「それも随分前のことで、最近じゃないぜ。……で、先週だったかな。戸川が一年生同士で道具の片づけをしてる時、猫の話をしてるのをたまたま聞いたって訳だ」
「それで?」
 巧巳が先を急かす。
「度肝を抜かれたんじゃねえの、あいつ。主将がいきなり猫談義に噛んでくるなんて」
「まあ、確かにそれは否定しない」
(4/30 1:00)

 まだまだ湿気を含んだ風が通学路を渡っていく。巧巳は暑苦しそうに制服の襟とネクタイを派手に緩めた。
「で?」
「だから、実は巧巳の妹が……ってすぐ説明した。もちろん、気軽に飼えるものじゃないからな。物入りでもあるし、やっぱり生活の中心みたいになっちまうらしい」
 巧巳は、そりゃあそうだろうと頷いた。
「家族のいちばん下が出来るのと同じ、みたいなもんだろ? しかも言葉通じねえし、成長しても自立はしねえし」
(5/1 19:00)

「自立って、おまえ」
 意外そうな声音で春海が言った。
「犬猫に自立を求めるか」
「ばか、喩えに決まってんだろ。人間だとすれば──って話じゃねえか」
 巧巳はその後、かなりの間黙り込んでいた。電車に揺られている間も、彼らの最寄り駅に着いてからも。
 実際に自分の家で、妹に負担を掛けず動物を飼育できるものだろうか?──それを真剣に考えているのだろうか。
(5/2 1:00)

 小さなグラウンドが見えてきた途端、巧巳が言った。
「やっぱり……無理だな」
「……」
「正美には可哀想だけど、無理だなあ。俺たちだって一日中うちにいる訳じゃないし、通いの家政婦に世話しろとも言えねえし」
「ああ」
「おまえん家みたいに住み込みだとしても、無理だろ?」
「無理だな。確かに」
 ただでさえ自分たちが世話を掛けているのに、と春海と巧巳は顔を見合わせて共感の苦笑を洩らす。
(5/3 9:30)

「……と、言うことで。後輩に頼ることにする」
 山本家と東条家との分かれ道で、巧巳は結論を出した。
「正美が喜ぶなら、見るだけでも見せてやりたいし」
「ああ」
「で、徹は当然としておまえは来るのか?」
「俺が? いや、おまえがいるなら引率役は十分だろ?」
「如何な秀才、山本春海と言えど犬猫のことで生き字引って訳じゃねえ。興味あるんだろ? それに、戸川はおまえもご招待したいだろ、どう考えても──じゃあ、明日な」
 巧巳は手を振って、自宅への帰路を歩いて行った。
(5/4 0:30)

「興味……」
 一人になった春海が呟く。
「猫に興味……?」
 自分でも首を傾げながら彼は再び繰り返す。
 縁がないので興味がある、それも道理。
 縁がないから関心もない、それもまた人間の心理。しかし見てしまったら? その愛らしさを。いたいけさを……
 あの子猫の上目遣いはどうしても誰かを連想させる。
 仰向けになると際立つ丸い顎の輪郭、疑うことを知らない目──主を信頼しきった目。
「いや。俺は飼い主じゃない」
(5/5 0:30)

 彼女には言葉が通じる。意思の疎通ができる。
 れっきとした人間を相手になんとおこがましいことを。
 そんなふうに思ったのか、春海は下らない考えを振り払うように歩幅を大きくして歩いて行く。
 後輩に話をつけた責任はあるのだから、招待を断るという選択肢はない。子供たちを引率すればよいのだ。巧巳と二人で。
 そして可愛らしい子猫を拝見して帰ってくる、それで終わりだ。巧巳の妹は喜ぶだろう。つまりは春海の弟のためにもなる。
 だから──
(5/6 1:00)

「か、かわいい。可愛い!……すっごく可愛い!」
 本日の主役ではないはずの彼女が叫んだ。
「ちっちゃい! かわいい……ねえねえ正美ちゃん」
「うん、いるかちゃん。かわいいね! わたしこんな近くで猫を見るの初めてなの。ぴょんぴょん跳ねてる、元気だね。嬉しいな」
 高校生のいるかより豊富な語彙を使いこなし、東条正美が答えた。そしてこの家の住人を振り返る。
「戸川さん、今日はわざわざどうもありがとうございます」
(5/7 0:00)

「あ、いえいえ、とんでもないです」
 小学生の正美が折り目正しいので、戸川少年も同じように畏まった。
「あ、あたしも」
 慌てたようにいるかが入り込む。
「あたしも、ありがとうっていうか、ごめんね。招ばれてないのについて来ちゃったみたいで」
 相手は何しろ生徒会副会長の如月いるかであり、野球部主将山本春海の『彼女』──仲間内以外ではその認識で十分だった──なのだ。戸川は再度、とんでもない、如月さんにも来てもらえて嬉しいですと返事をした。
(5/8 0:30)

 その会話の間も、正美といるかの目は小さな生き物に釘付けだ。
 見慣れぬ大人数の客に驚いているのだろう、客が入ってきた当初は走ったり跳ねたりしていた子猫は、今は遠くから──猫用の塔からじっと彼らを見つめている。
「ごめんなあ、驚かせちまったな」
 巧巳が子猫に声を掛けた。すると子猫が反応し、塔の頂上から軽々と駆け下り、客たちの近くにやって来た。
「ミル、兄ちゃんの先輩たちと妹さん弟さんだよ。ミルが可愛いって見に来てくれたんだ。おいで」
(5/9 19:00)

 ミルという名の子猫が、飼い主──の家族の一員──である戸川のそばに擦り寄ってくる。
 正美は、徹と顔を見合わせて小さく呟いた。かわいい、と。
「かなりびっくりしてんじゃねえか? いきなり大人数で」
「まあ、滅多にないことですから。でも大丈夫ですよ、しばらく放っておけば慣れてきます」
 その間お茶しましょうと後輩が言うのと同時にドアが開き、彼の母親が入ってきた。ティートローリーという名のワゴンには菓子やティーポットが並んでいる。
(5/10 19:00)

「まあまあ、今日はようこそいらっしゃいました」
「こちらこそ、大勢で押しかけて申し訳ありません」
 一同の代表として、春海が後輩の母親に挨拶をした。もちろん最初に玄関でも済ませてはいたのだが。
 背の高い、痩せ型できりっとした顔つきの──なかなかの美女であった──母親は、迷惑どころか非常に嬉しそうだった。
「まさか息子が生徒会長さんをお連れするなんて。いつも聞いていますのよ、野球部でも主将の山本さんと東条さん」
(5/11 1:00)

 後輩の母親は二人に微笑みかけ、正美と徹にも笑顔を振りまく。最後に、少々意味ありげな間を置いてからいるかにも会釈をした。
「さあ、熱いうちにお茶をどうぞ。ケーキもお口に合えばよろしいのだけど──私が作ったものだから、心配ですわ」
 そうは言っても、並べられた菓子は三種類もあって、どれも食欲をそそる見た目だった。
 ジャムとクリームの添えられたスコーン、無花果の乗ったレアチーズケーキ、そしてクリームの挟まれたチョコレートスポンジケーキ。更に、サンドイッチまで。
(5/12 19:30)

「お母さん、リラは?」
「向こうで大人しくしているわよ。呼ぶ?」
「その方が慣れると思う。俺連れて来るよ」
 客たちは親子の会話に首を傾げたが、出て行った戸川がすぐ戻ってきたので一同納得した。
 後輩はもう一匹、猫を抱えてきたのだ。
「え、一匹じゃなかったのか?」
「写真はミルだけだったんですけど、これはミルより一年先輩です。なあ? リラ」
(5/13 19:30)

 由緒ある名門校、里見学習院の生徒ということはつまり、高確率で裕福な家庭だということだ。戸川の家も立派な外観の広い家で、しかし一方で古い時代をも感じさせるモダン様式と呼べるものだった。
 そういう訳で、猫が何匹いても困りはしない広間に大きなテーブルがあり──しかもここは通常、戸川家のダイニングでもない一部屋なのだ──猫用のケージ、キャットタワーなどが鎮座している。
「この子も可愛いでしょう?」
 戸川はリラを抱えたまま正美に近づけた。
「かわいい。リラちゃん」
(5/14 0:10)

「その子もフランス名なのかな。ライラックの」
 春海の言葉に即反応したのは戸川家の二人だけだった。
「すごい。よくご存じですね。主将」
「本当に、すぐお分かりになりますのね」
「?」
 巧巳以下が説明を求める顔を向ける。菓子に気を取られている彼女以外は。
「ライラック、花の名前だよ。フランス語でリラ──北海道を代表する花だぞ。これから行く場所なんだから、覚えとけ」
 夏の花だからもう咲いてはいないけど、と春海は補足した。
(5/15 0:30)

「わあ……」
 大丈夫という顔で戸川が頷くので、リラという名のもう一匹の猫を、正美が恐る恐る抱きかかえた。
 子猫のミルよりも当然大きな体ではあったが、年上だけあって人にも慣れているらしく、初対面の少女の腕の中でも静かに収まっている。戸川が頭を撫でて安心させているからだ。
「リラいい子だね。正美ちゃんにごあいさつできる?」
「お花のリラちゃん、初めまして」
(5/16 18:00)

 にゃ、と鳴き声がした。
「わあ。お返事してくれた」
「可愛いね」
 徹も、そんな正美を見て嬉しそうだ。
「さあさあ、冷めないうちにお茶をどうぞ」
 母親の言葉に、名残惜し気に正美が戸川に猫を返し、一同はテーブルに着いた。戸川とその母親が説明するには、そうしてしばらく──要するに、猫たちに客を検分する時間を与えた方がうまく行くらしい。客ではなく猫に権利があるというのだ。
(5/17 0:30)

「猫ってそういうもんなんだ? まあ、犬に比べたら気ままってイメージはあるけどな」
 巧巳がある意味、感心したように後輩に問いかける。
「そういうもんですねえ。でも、家族には凄いですから。甘え方が」
「へええ」
「遊んでって擦り寄ってくるんですよね。仰向けになって足をじたばたさせたり、転がって撫でてくれって催促したり……じゃあ、お茶淹れますね」
 一応、招待したのは戸川少年であるので、彼は律儀にホストとして茶を淹れる役目に没頭し始めた。
(5/18 1:00)

 5/19:今後の連載について
 ※2020年5月上旬~中旬近況あれこれ※140字連載に関して追記

 それからしばらく、一同は香り高い紅茶と菓子を楽しんだ。
 甘党ではない巧巳や春海にも、濃厚なクリームとジャムを挟んだスコーンのあとに塩味のサンドイッチがあることで味のめりはりを感じることができた。小さな器には口直しのピクルスもあった。
 子供たちといるかは、甘いケーキを何種類も食べて喜んでいる。
「このチーズケーキ、すごくおいしいです。いちじく、おいしい」
「チョコレートのもおいしいです」
 子供たちは食べるたびに戸川の母親に感想を述べる。彼女は満足そうに微笑み、自分がいつまでも控えていると会話が弾まないだろうという配慮なのか、いったん部屋から出て行った。
「これ、うまいな、このチーズケーキ。俺そんなに普段はチーズケーキなんて食わないけどさ、さっぱりしてる」
「ああ。チョコレートも生地自体はそんなに甘くなくて、中のクリームとバランスがいい。おまえのお母さん、料理がうまいんだな」
 春海が褒めると、戸川は嬉しそうに前髪を掻いた。
「いやあ、最近イギリスのアフタヌーン・ティーってやつですか、それに凝ってるんですよ。食いきれないほど作っても、うちには兄と僕しかいないんで……父もそれほど甘いものは得意じゃないですし。今日は本当に母が楽しみにしてたんです。お客様にお菓子作れるって」
「アフタヌーン……」
 食べながらも視界のどこかで動き回る猫たちをぼんやり追っていたいるかが、ふと反応した。
「そうだ。これ、この食器とか……前、ホテルで食べたのと似てるよね? 春海」
 子供たちは食べることに集中している振りをした。しかし巧巳は立ち位置としてそういう訳には行かなかった。
「は?……ホテルで食った?」
「うん、あのね──春にね……」
「いるか……」
(5/20 1:00 少しまとめて更新しました)

 帝国ホテルでティータイムを楽しんだ、ということだけなら何の問題もない。
 しかし言う必要のないこともある。──と、彼は危惧したのだろう。言ったところで微笑ましい場面だな、で終わる一幕であったのだが……
「ねえ、あの時のお茶に似てるね」
「そうだな。本場の英国式」
「あの時ってどの時だよ」
 雰囲気からして深刻な話ではないと悟った表情で、巧巳が問う。
 咳払いをしてから、春海は、
「春休みに、その……場所の下見を兼ねて──帝国ホテルで似たようなアフタヌーン・ティーセットを食べたんだよ……いや飲んだって言うのか?……とにかく、そういうこと」
 部外者のいるこの場では、その『ホテル』を何のために『下見』したのかは口にできない。彼はそれで説明を終了させた。
 いるかは春海の高等な回避能力に気づいているのかいないのか、うんうんと頷く。
「あれもおいしかったけど、戸川くんのお母さんってすごくお料理上手だね。どのケーキもきれいだし、おいしい。プロみたいだよ」
「そ、そうですか。母が喜びます。会長と副会長と東条先輩に来てもらうって話になって、僕クラスの皆に羨ましがられちゃって」
 巧巳は春海を見た。春海も視線を合わせ、そして小さく首を横に動かす。これ以上追及するなという合図だろう。
 そこは巧巳も慣れたもので、紅茶を一口飲んでから椅子を派手に動かし、猫たちの様子を窺う姿勢を作った。
「お、大きい方がくねくね転がってんぞ。何だあれ」
(5/25 1:30  少しまとめて更新しました)

 5/25
 多忙につき、しばらく休止します。





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HN:
小林りり子
性別:
女性
自己紹介:
妄想を垂れ流す女。
当ブログは「いるかちゃんヨロシク」専用になりました。
2013.3/4、旧「愛のうた~」よりお引越し。

当ブログは、非公式の個人ブログです。
集英社ならびに浦川まさる先生とは一切関係ありません。
閲覧の際はご注意下さい。

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