[20回]
「みんなー、お疲れさまー!」
練習が終わったと見ると、いるかが声を張り上げた。
野球部という場所には、女子マネージャーというものが必ず付属しているのだと誰もが思うかもしれない。
しかし里見学習院高等部の野球部は――少なくとも現時点では――女子の影すら無く、どこを見渡しても男しかいない殺風景なクラブであった。
そんな中、ひとりの女子が頻繁に訪ねてくることで野球部は色んな意味で活気づいた。
言うまでもなく、如月いるかである。
男だらけということに特別の身構えもなく、怖がりもせず、むしろ嬉々として「あたしも打ってみたいなあ」だの「盗塁って難しそう」だのと楽しそうに話す彼女は、それを見守るエースピッチャーのどうしてもにじみ出てしまう渋面に一切気づかず、延々と野球談義を繰り広げるのであった。
最後には、東条巧巳がため息をつきながら「はい、それまで」と手を叩く。そして、主将あるいはエースに愛猫を返すような顔をしてみせるのだ。
「おまえ、こんな暑いんだから見てなくていいのに」
「平気平気、こんなの。だいたいさっきまで、あたしだってサッカーしてたんだからさ」
「……」
「わあ春海、汗いっぱい。ちゃんと拭かなきゃ……それにしても、夏でもそのユニフォームって暑いよねえ」
「暑いな、確かに。汗が篭もるし」
「そうだよねえ……よし、どれどれ?」
「……」
巧巳は素早く、その他のメンバーに回れ右を命じた。
「おい、おまえ……」
「うーん……」
猫のような女は、鼻をひくひくさせてエースピッチャーの胸あたりに近づいていく。大きな目を何度もまばたきさせて、猫は飼い主を上目遣いで見ながら笑う。
「おでこも汗いっぱい」
「おい、汗臭いんだから近づくなって」
「そうでもないよ?……うん、大丈夫。いつもの春海の匂いしかしない」
「……」
彼女にとっては深い意味などまったくないのだが、そのきわどい言葉に野球部の面々は――猛暑の中で――冷や汗をかく思いをした。
巧巳は盛大なため息をついたが、もはや皮肉を言う気力も出ないらしい。
「暑くて頭がどうにかなっちまいそうだな。まったくよ」
主将に至っては、いつもの鋭さも厳しさもどこへ行ったのか。珍しく構ってほしげな猫と遊んでやるべきなのか突き放すべきなのか、恐ろしい煩悶を抱えながらも練習の終わりを皆に告げる。
ぎらぎらとした初夏の陽射しの中で、里見学習院野球部は甲子園を目指す。
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時系列で言うと、少しワープ気味になってしまいました。
高2の初夏あたり、甲子園の地方大会(東京大会)前の話……というか、今ちょっと思い浮かんだだけのネタというか……
暑苦しい時には、とことん暑苦しい話が書きたくなるのです。
不思議ですね。
それにしても本当に謎だ、里見野球部。
マネージャーどころか監督もいないとか、あり得ないだろう。
今後、甲子園がどうこうという展開になったら私はどうすればいいの!?
(書かなきゃいいじゃないか!)