[16回]
いるかちゃんにさせてみたい恰好とか盛り上がりそうな企画がどんどん浮かぶのに、彼女のそばには恐ろしい審判係がいるので実現した試しがない。
困ったことに、その審判者は学校内の最高権力者――生徒の中で、という意味だけれど――だから、彼に却下と言われたらそれでおしまい。
おめえも懲りないなあ、坂本――とは東条先輩の言だけど、もう2学期が始まっちゃったんだから焦るわよ。文化祭が目の前じゃないの。
もう、こうなると奇をてらった企画は捨てちゃって、山本くんの隙を突くわよ。
そうなったら、あとはこっちのもの。言質さえ取れればいいんだから。
「だからね、山本くん。副会長のいるかちゃんが舞台に上がってくれることで、みんな盛り上がるのよ。それは分かってくれるでしょ?」
「それは分かるけど、本人の意思は?」
「まあ……そうね。歌うのはやだって言い張ってるわね」
「だろ。だったら、軽音部の役には立たないと思うけど」
この里見学習院で、一年生の……しかも新顔組の生徒会長なんて前代未聞のはずなのに、あっさりその役目をこなしている山本くんって、やっぱり普通じゃない。
でも、いるかちゃんに言っても「そうかなあ? 倉鹿でもずっとあんな感じだったよ」と返される。彼氏の水準が異様に高すぎるということに、いるかちゃんは気づいていない。
駅伝のときにちらっと見た、倉鹿でのお友達ってのも、相当――女の子たちも含めて――水準が高かったし、いるかちゃんってそういう星回りなのかな。
まあ、倉鹿修学院もこの里見も、一応は文武両道のエリート校ではあるんだけどね。
……でも、つくづく見つめると、いるかちゃん本人だって……可愛いのよね。
あたしは女だから、山本くんとはまた違う見方をしているんだろうけど、でも、可愛いっていうのは分かるわよ。
嫌味じゃないもんね、いるかちゃんって。
「歌わなくてもいいのよ。何と言うか、思いっきり盛り上げてくれたらさ。あとはあたしたちが演奏で頑張るんだから」
「……」
「文化祭初日のステージだし、副会長としてのお仕事だと思ってくれたら有難いんだけど」
「生徒会として協力することに異論はないよ。だけど、するかしないかはあいつ次第だから、あいつと交渉してくれないかな。坂本さん」
「じゃあ、いるかちゃんがOK出してくれたら、ミニのウェディングドレスでもいいのね?」
「いや、おい……ちょっと待って。何でそうなるんだ? 歌わないなら衣装なんて要らないだろ」
「だって雰囲気ってものがあるじゃない。舞台の上なんだから……まあ、ウェディングドレスは冗談としても、あたしに良い案があるんだ」
「……」
「制服のまんまよ。でも、ちょっと加工するわけ」
「……」
「ちょっと崩したりしてね……そうね、いつものリボンを違うネクタイにして、ジャケットなしでチェックのベストなんていいわね。――それで、ここがいちばん肝心なんだけど。非日常的な雰囲気を醸し出すのには必須なの」
「……」
「スカートをね……」
山本くんの眉間に緊張感が走った、ように見えたのはあたしの錯覚かしら。
「スカートをちょっと……上げるの。ほら、あたしたちの制服って結構長いでしょ? よその学校じゃ短いスカートも多いのに。いるかちゃんは背が小さいから、長いか短いか、どっちかはっきりさせた方が可愛く見えると思うよ――あたしはね。そうね、膝上ぐらいまで」
「……膝?」
まあ、山本くんにとっては、いるかちゃんの膝なんて珍しくもないとは思うんだけどさ。運動する時なんて、腕も足も天真爛漫に晒しっぱなしじゃない。
でもね。男の子って、それとこれとはまた別の話だって思うんじゃない?
「そう、膝がぎりぎり見えるぐらいに。それで、スカートにピンバッジとかリボンとかつけてさ。ちょっと派手めなベルトとか……」
「……膝……」
隙あり!
ねえ、そんなふうに揺らいだら隙を狙われるよ。つけ込まれちゃうよ、山本くん。あたしみたいな悪人に――
あたしが女で良かったね。
「そう。そうなの、だから許可してくれるかな?……OKしてくれるよね? 山本会長」
苦々しそうな表情で書類に目を戻す山本くんにお礼を言って、あたしは生徒会室をあとにした。
今日は、山本くん一人っていうのもラッキーだったわ。
ここに東条先輩がいたら、何やかんやと茶々を入れられそうだったしさ……
さあ、これで準備は整った――かな?
いるかちゃんには「山本くんはOKしてくれたよ」と言えばいいし、あとはあたしたちの演奏次第よね。それには毎日、練習あるのみ。練習、練習……
それにしても。
さっきの山本くんの顔、いるかちゃんに見せてあげたいと思ってしまったけど――きっと、いるかちゃんは(やっぱり自分では気づかずに)飽きるほど見ているんだろうなあ。
何度も何度も、ね。
*****
晶さん、それはセクハラです……
原作を見ていると、ユニフォームだの運動着だのって腕も足もほとんど見える訳ですが(いるかにとっての春海も同じ)……
今さら膝で動じる春海でもなかろうに、とは思ってしまうんですけどね。
あ、それはともかく、何だか着々と文化祭話が進んでいるように思われるかもしれませんが、実は何も考えていません。
文化祭そのものを書くかどうかも決めていないし――主たる理由は、今それどころじゃない――その後いるかが家出すると思ったら、やっぱり春海が可哀想で仕方ないしなあ……
果たして続くか続かないのか、いるかは歌うのか歌わないのかは、行き当たりばったり方式です。