水面に零れた月の滴。
光の羽根となり、背中に生まれた。
どこまでも、どこまでも、夜空の果てまで飛べる。地上に縛られる理由はない。
ひとりでも飛べる。だから捉まえないで、探さないで。
たった一瞬でも空へ浮かべば、俯瞰で地上を──大きな海原をも──望むことができる。
海が月を抱く。
大きく揺れる。揺さぶられる。
優しくさざめく、寄せては返す。
月は溺れそうになりながらも決して沈むことなく、海を照らしている。その光だけを頼りに、海は囁き、歌い、時には叫びながらその身を震わせるのだ。
波が激しく飛沫を散らす時、月が笑っているのを海は知らない。月は従順なようでいて強かに甘い。ちいさな月には受け止めかねるほどの大波だったはずが、今では海が月に抱かれているようだ。──月はまだ、笑っている。
海を何度も誘うように。
この世で最大の謎であるはずの海から水が引いていき、やがて干乾びる。
月は笑っている。
何者をも拒むはずの、深海の最奥。月に導かれ、光を招き入れる。
月が誘っている。
燃え尽きた海の輪郭をなぞり、照らし……海が息を吹き返せば、再び水平線で交わり溶け合っていく。
海がうねり月を飲み込み、月が微笑み海を包む。
「溶けるね……」
海が、月に。
月が、海に。
「狂うよ……」
月が狂わせる。
月のせいにしてしまえ。思いきり狂うことができる。
朝になれば消えてしまうのだから、今はただ、その光の道を水面に映して。
名残惜しい眼差しで、海は、恋焦がれる天体を見つめている。
黎明の時、ちいさな白い残月。
羽根を隠した少女が、寝床から起き上がる様を。
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名前も代名詞も出さない自分縛りシリーズ、いったいどのカテゴリーなのか分からない代物なのでファンタジーの方に入れておきます。
いや本当に、「何がしたいのシリーズ」とでも言うべきか。
[8回]