家出ルック
(マフラーはしていなかったし、鞄も形状が違うけれど)
西に逃げたはずなのに、気がついたら寒い寒いところまで北上してた。
誰も知ってる人はいない、誰も助けてくれない。
それはわかってるけど、まあ、きっとどうにでもなるよって思ってるあたしを見たら春海は怒って怒って怒りのあまり、「おまえなんか、もう知るか! 勝手にしろ!」って背を向けてしまいそう。
あたしだって、まさかこんな場所にたどり着くとは、さあ……
考えてなかったし……
怒ってないの?
怒ってるっていうか、呆れてるよね?
でも、あたしにはあたしなりの理由があって。
だってそうでしょ、理由もないのに家出してどうするの?
お嫁さんとかは、その場のなりゆきだからあたしに言われても……
人助けだと思ってやったことだし、嘘なんだし。
ああ、でも、東京に帰らなきゃいけないことはわかってるけど、こっちでもお嫁さん──とかいう問題が残ってたんだ。
ケッコン。
そう、そうなの……エンダンとかオミアイとかいう話を突然持ち出されて……冗談? 冗談だったらよかったねえ。
そうじゃないから家出したんだよ。
外務大臣がどうこう……
父ちゃんは断れない……っていうか、何だか手放しで喜んでた。大人の事情はあたしにはわからないけど、それにしたって十六の娘に本気で言うことなの? ケッコンって。
…………え?
…………外交官の娘と見合い? 春海が?
……え、え? どういうこと……?
逃げるのが得意の女。
でも、嘘をついてまで逃げるな。
話はちゃんと最後まで聞け。徹底的に争う姿勢を見せろ。
逃げるのが上手な女だよ、まったく。
でもな、駆けずり回って探す俺の身にもなれ……
そう言って、春海は笑った。
内側から、いろんな感情が沸き起こってくるみたいに体を揺らせて。肩を震わせて。
声を出してひとしきり笑ったあと、一瞬だけ泣きそうな目を向けて……
愛してる
だから、逃げるな
と、ため息のように呟いた。
[15回]