「まず、塩鮭を焼きます。黒焦げにならなきゃ大丈夫」
冷めたら鮭をほぐします。
でも面倒だったら市販の鮭そぼろでもいいよ!
「昆布の佃煮と、梅干しを用意してね! 炊きたてごはんをにぎって、鮭と梅干しを昆布を入れていきます。それから海苔を巻きます……目印として、昆布おにぎりは海苔なしね」
きれいな三角形にならないけど、まあいいか!
「野菜炒めを作ります。えーと、キャベツ……適当に切ってね。にんじんも輪切りにして、それからそれを半分ぐらいにして……ピーマンは種を取って細切りにして、そんで、ハムでもベーコンでもソーセージでも好きなものを入れて炒めてね! 味つけは、えーと。あたしは、塩こしょうとケチャップ、おしょうゆと……お味噌を入れてみた」
まあ、どんな味でも食べられないことはないよね!
「あとは、家にあるものを適当に……野菜炒めにはハムを使ったので、それとは別にソーセージを人数分×3本ぐらいで炒めます。それからお店で売っている豆の煮たやつね。ちょっと甘いやつね」
本当は、あともうひとつ「すっぱい味」があればバランスがいいって何かの本で読んだけど、初めてこんな大人数のお弁当作るあたしに無茶言わないで。
「さあ、難関の卵焼きだよ。卵を溶いて、えーと、砂糖とおしょうゆを入れるっと……だし巻きなんて高度なことはあたしには無理! ああー、きれいにまとまらない……まあいいや、何とかひとまとめにして、あと熱いうちにアルミホイルで巻いたら形は何とかなる」
ああ、もう七時半だ……なんでこんな時間かかるんだろう?
五人分ってすごい量だなあ……っていうか、一人分だってお弁当作るのは大変。
あたし、母ちゃんに感謝しなきゃ。

◇
「さっき、ずっと黙って食べてたけど……やっぱり、おいしくなかった……?」
「その顔」
「え?」
徹くんと正美ちゃんが、巧巳を引っ張って先を歩いている。
その瞬間、春海があたしの頬を指差して、小声で言った。
「顔が傷だらけになってない。猫とケンカしたみたいな」
「――」
「あの時よりずいぶん、手際が良くなったってことだろ。うまかったよ」
「ほ、本当かなあ」
「……実はな、いるか」
「う、うん」
「藍おばさんの弁当よりうまいって思った」
「……」
見え透いているけど、でも、そう言われたらあたしだって嬉しい。
誉めるのが上手だね、と言ったら、春海はにやっと笑った。
それから、あたしの耳元に顔を寄せて、さっきよりもっと小声でささやいた。
「今度は二人だけでどっか行こうな。だから、また作ってくれる?」
*****
「今度は二人だけで(以下略)」→なぜか新潟駅……
駅伝後~家出前の話を書くと、結局のところいつも、「ああ、それでもいるかは家出しちゃうんだ。春海かわいそう」ってことになってしまいます。
巧巳の撮ったネガをくまなくチェックする春海さんは、脳内イメージでは病的春海さん(通称ハルウミィ)の絵面です。
完全に同じものではありませんが、ダイナミックなお弁当を再現してみました。
書いてる時も実は「味噌とケチャップって、普通に食べられる味だよなあ」と思っていたのですが、やっぱりというか普通に食べられました。
ちょっと中華風ですかね。
いるかのはきっと、にんじんを分厚く切りすぎて固かったのでしょう……
[16回]