[14回]
春海が、あたしたちを見ていた。
あたしも春海から目を離せなかった。
言葉が出なかった。名前しか……
ずっと見てたの? ずっと……?
顔にかかった海水がしょっぱい。
そんなことを、頭の片隅でぼんやり考える。
――なかなか来ないから心配した、と言う春海の顔。その心まではあたしには読み取れない。いつもと変わらないようにも見えるし、声が怒っているようにも聞こえる。
春海が、分からない。
今、見たんでしょ?
でも、何も言わなかった。
怒ってるの?
どうして何も言わないの?
あたしに怒ってるの? それとも巧巳に?
それとも……
何とも、思っていない……の……かな?
あたしが……
あたしが他の人とキスしてるのを見ても、春海は何とも思わないの……?
多分、あたしは、ショックを受けていた。
「どうして怒ってくれないの」って思っていた。
どうして?
どうして?
その場に居たたまれずに、逃げるようにして帰ってしまった。春海も巧巳も、あの後どうしたかは知らない。
巧巳にキスされたことより、春海の目が……
春海が、まるで何もなかったかのように背を向けたのが、あたしにはショックだった。
今度、顔を合わせてもあんな目であたしを見るの?
そう思ったら、なんだか体がすうっと冷たくなった。
昨日、連絡は来なかった。
今日も春海の声を聞いていない。
明日は、どうするの? 何もなかったように話してくるの?
どうして、どうして?
あたしが悪いの……?
どうしたらいいのか、分からないよ。
電話もできない。
第一、電話したからって何と言い出せばいいのかも分からない。
どうして聞いてくれないの。
あたしが好きなのは……
あたしがキスしてほしいのは……
どうして、何も言ってくれなかったの?
*****
いつも、いるかは「春海が嫉妬している状況に気付かない/嫉妬されているとは思ってもいない」のですが、この場面だけは別でした。
こうまであからさまに「嫉妬されるはずの状況」を自覚している彼女は初めてじゃないでしょうか。(4巻の進とのあれこれも、そうだと言えばそうなんだけど……)
春海が背を向けた次のコマで、いるかは傷ついたような、今にも泣きそうな表情をしています。
私にはそれが「どうして何も言ってくれないの?」と言っているように思えるのです。
4巻もかなり深刻な状況だったと思うんですが、あれはまた別パターンとして私は認識していて、あの時の春海は「怖くて進にもいるかにも問い正せない」という心境だったんじゃないかな。
で、6巻で「現場」を見てしまった彼は今度こそ怒り心頭、恋敵と乱闘モードってことですかね。
この話は、サイトにも掲載しております。