毎年参加していた行事に、ある年から完全に除外され、爪弾きにされるというのは──気分が良くないものだ。
どうしようもないことだと分かっていても、花屋を避けて通る。
色とりどりの花を見ないようにする。
迷いながら笑っている人々の顔を、羨ましく妬ましく思う。
自分は交われない──交わりようのない熱狂を、人間というものは嫌悪する。
そういう時期が二年間、あった。
友人たちが変に気を遣わないように、自然に会話できていた、と思う。けれど今にして振り返ってみれば、俺は本当に何も思わなかっただろうか? そうだ、明日は花屋行かなきゃな……と言いかけて口をつぐんだ友人たちを前にして。
何も思わなかったのか? そんなはずはなかった。
だからと言って、どうにもならない。何もできない。堂々巡りを経て十五歳の春になり、俺と徹は今、紛れもなく花屋の前に立っていた。
「ほら。こんないっぱい! 色もたくさんあるよ。徹くん、どれが好き?」
「どれもきれいだねえ。赤もピンクも」
「ね? ほらほら、花束になってるのもあるし、鉢植えもある。リボンかけてもらって、おばさんに贈ろうね」
「うん。よろこんでくれるかなあ」
「そりゃあ、そうだよ! 絶対ね。……ね? 春海」
こいつも確か、倉鹿に住んでいる限りはこの行事とは関わりの少ない気がするんだが……
昨日、この数年間で初めて屈託なく祝いの花のことに話が流れて、聞かれるままに答え、俺も聞いて……
勿論、いるかは最初、進たちと同じ表情をした。触れてはいけない、という顔をした──でも、何と言えばいいのだろうか……ある意味、倉鹿では彼女は俺たちと同類のようなもので、それも大きかったかもしれないが……嫌な感情を、暗い思いを吹き飛ばしてしまうような大声だった。
「じゃあ、じゃあね! 藍おばさんに贈ろうよ。徹くんもいっしょにお花屋行ってさ」
「でも、おばさんにはちゃんと息子さんがいるんだぞ。俺たちが出る幕じゃ……」
「ああ、もう、そういう理屈っぽいのはやめようよ。毎日いっしょにいて、ごはん作ってくれて、家のことしてくれてさ。いつもありがとうって言うのが間違ってる訳ないじゃん」
「……」
「お花もらって怒る人、いないよ? たぶん」
「……」
「そりゃあ、あたしもさあ。おばちゃんにそういう気持ちはちゃんとあるよ? あるんだけど、うちの場合はまた事情が違ってるでしょ。あたしはあんたの母親じゃないよって怒られそうだしねえ……」
「なるほど……」
「決まりね! 明日、徹くんも連れてきて」
そうして俺と徹は、途切れてしまった行事に再び参加した──というか、彼女にそう導かれたのだ。
花屋で、こんなところにはいたくないという顔をするのは難しい。機嫌を悪くしたままというのが難しい。
どうしても笑ってしまう……
同じように迷っている人の群れ。あれこれと選ぶ楽しそうな顔。
赤とピンクのカーネーション、かすみ草、季節の花もいくつか合わせて大きな花束にした。いるかは「あんまり大げさだと、たぶん怒られるから」と、薔薇を主として薄い色をしたカーネーションやかすみ草を選んでいた。傍目には十分派手だったが、配分としては薔薇の方が多かったので、いるかなりに独身の叔母さんへの気遣いをしたんだろう。
「すっごく喜んでくれるよ、おばさん」
「うん」
いるかの言葉に、徹が笑っている。
「で、おまえは?」
「え?」
「おまえ、お母さんに……手紙でも送ったのか? 花は無理だろうけど」
「あ、うちの母ちゃんのこと……実は、まだ何もしてない。へへ」
「手紙書けよ。遅れても」
「うん。……ちゃんと、書くね」
いるかの返事がゆっくりと響く。──届く手紙を書けるおまえが羨ましい。俺はそう言っていたのだろうか、声にならない声で。
「それにしても、花屋はすごかったな。次から次に人が入ってきて……一年で一番っていう時期なんだろうな」
「去年ねえ、あたし、遠くで見てたの。買い物してたら花屋が賑やかで。ああ、そうか、この日かって思って……でも、用事ないからなあって。入っていく人がちょっとうらやましかった」
「……そうだな」
「おばさん、きっと喜んでくれるよ。──うちは怒られるかもしんないけど」
「おまえの叔母さんだって、理由は何であれきれいな花は好きだろ。怒りゃしないよ」
「あ、いいこと考えた。春海に贈ってもらえばいいんだ。おばちゃんに」
互いに花を抱えて、笑い合う。
幸せの象徴のようなものだな、花って。
──その一方で、不幸を彩る花もある。それはきっと、花というものが圧倒的に美しいからだ。悲しみの場に慰めが欲しいからだ。残された者たちが。
どんな時でも、花は眩しくきれいだ。
喜ぶ顔を見るのが嬉しくて、俺たち兄弟は照れ笑いをするばかりだった。
花だけでなく、ちょっとした──だけど高級な──和菓子も添えて。いるかの言う通り、いつも俺たちの世話をしてくれる人は喜んでくれた。
こんな簡単なことに、今年になるまで気づかなかったんだな。俺は……
「お兄ちゃん。こっちも飾ろう」
「ああ」
仏壇に供えた白のカーネーション。
どこか知らない世界で、喜んでくれているだろうか。今日という日に。
『ちょっと怒られた。でも、まあ、好きな色だよって言ってくれたから、よかったあ。──晩ご飯ね、何かご馳走っぽいんだよ。機嫌いいのかなあ?』
受話器の向こうで、潜めた声。
花を贈られて気分を害する人なんていない。
おまえがそう、自信ありげに諭してくれたはずじゃなかったのか?
[20回]