[12回]
考えてみれば、いちばん最初もソフトボールだったね。
いるかちゃん。
クラブに入るなんて面倒、ルールなんて覚えられないって言ってたいるかちゃんが、修学院で最初に入部してくれたのが、私が主将を務める女子ソフトボール部。
あまりにも弱小で、一度も試合に勝てなかった。
ここは武道とスポーツの名門校で、そんなクラブは学校の恥だからって廃部にされるところを救ってくれたのが、いるかちゃんだった。
あの時、私は思ったんだ。
勝負は時の運でもあるし、どちらかが必ず負けてしまうものだから、勝てない時があるのは当たり前。
でも、本当に必死でやって負けてしまうのと、最初からどこかで諦めているのとでは負けの意味が違う。
いるかちゃんはなんであんなに、必死になってくれたのか。
あの頃のいるかちゃんは、鹿鳴会決定戦で引き分けた山本くんと衝突ばっかりしていたから? 負けず嫌いで、すぐケンカしちゃう性格でもあったから?
廃部にされたくなきゃ勝つしかないんだ!って、主将の私よりも焦っていたように見えた。
それなのに実はソフトのルールさえ知らなかったりして、ほんと、今だからこう言えるけど、いるかちゃんっておかしかった。
でも、いつも真剣だった。
転校したばかりで、しかも女子で鹿鳴会の会長になってしまったいるかちゃんは、それまでの山本くんたちとは少し違うやり方で、私たちを指導してくれたって思ってるの。――今ではね。
全力で立ち向かうって、ああいうことを言うんだなあって。恥ずかしながら、主将の私がまず教えられた。
いるかちゃんの意気に感じた銀子さんまで試合に参加してくれて、いるかちゃんは怪我まで負って、それでも投げ続けてくれた。
そして……
但馬館に勝ってから、私たちが劇的に強くなったかと聞かれたら、決してそうじゃない。
でも、努力が報われることの嬉しさを知ったよ。
そして今年は、一応は銀子さんにも「見違えるほど良くなった」と言われるぐらいには上達した。
いるかちゃんが、身をもって教えてくれたから。
最初から諦めるな、って。
今のこの状況は、ちょっと通常の試合と比較にならないけど――修学院も但馬館も、OBやら他クラブのメンバーまで入り乱れちゃって、かなり大変――私たち、いるかちゃんが教えてくれたことは忘れないよ。
いるかちゃんの、倉鹿での最後の試合がソフトだなんて。
これでいるかちゃんの飛び跳ねてる姿を見るのが最後だなんて、まだ信じられない……信じたくない。
でも、いるかちゃん。
私たち、ここで……
このグラウンドで、いっしょに頑張ったよね。
ソフト部だけじゃない。
銀子さん、杏子さんも……剣道部の湊、鹿鳴会の一色くんと長門くん。それだけじゃない、修学院のみんなが、いるかちゃんを見てる。
敵だった但馬館のみんなも、勝負しながら、いるかちゃんを惜しんでくれているのがよく分かる。
それから……
私は、大声援の響くスタンドを見た。
ね、いるかちゃん。
私たちの会長、山本くんはあそこにいて、もう一人の会長のことを応援してくれてるよ。
いるかちゃんと山本くんの間がちょっとおかしいとは、みんな思ってたけど……山本くんにも隠したままだったんだね。つらかっただろうね。
山本くんも、きっと、私たちと同じ。
きっと、いま知ったんだ。
だからあんなに、大声を上げて……
気がつけば、敵も味方も関係なく、声援はひとつになっていた。
フレー、フレー、いるか。
フレー、フレー、いるか!
いるかちゃん、打て!
みんながそう思った瞬間、白いボールが青空に吸い込まれていった。大歓声と紙吹雪が飛び交った……
◇
考えてみれば、このグラウンドから始まったのかもしれない。
それからずっと、いるかちゃんがいた。私たちの毎日に、いつの間にか、いるかちゃんがいたね。
小さくて元気で、いつも走ってて……
みんな憧れるけど近寄り難くもあったあの山本くんを、怖かった銀子さんや杏子さんを、私たちみんなを、いつの間にか変えてしまった女の子。
泣くのはまだ早い。もう少しだけ、あとにしよう。
今はただ、お祭り騒ぎの中で喜び合うだけ。
私たちの同級生、いつまでも同級生。
忘れないからね。
絶対に……
*****
This used to be the place
we ran to...