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こちらは、大昔の少女マンガ「いるかちゃんヨロシク」をお題とした二次創作ブログです。目指せ! 春海しあわせ計画。 ☆絵と文章:小林りり子☆ ★閲覧の際はご注意下さい★ 激しくポエム、激しく自家発電、激しく自分絵(らくがきレベル)。突然、時系列をワープする無節操さ、唐突なファンタジー設定、微妙にR18要素あり。
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 倉鹿修学院という場所で過ごすのも、残り一ヶ月を切った。
 ただし、これは俺の個人的事情である。
 ほぼすべての生徒はそのまま高等部へ進むので、歓送会や卒業式が待ち受けるこの時期になっても学校内は穏やかなものだ。
 一年、二年生は賑やかに三年生を送り出そうと劇の稽古に励み、気の早い連中は四月に向けて――鹿鳴会選抜に向けて鍛錬を始めたりする。私立学校特有の呑気さかもしれない。
 毎年そんな光景が繰り返されるはずなのに、なぜだろう。今年は何かが違っていた。


 これが最後なのだという俺の感傷かもしれない。今見ているものすべてが、もう今月末には日常の光景から消える。
 古い城下町と大きな川。通い慣れた道に沿って並ぶ木々。路地裏、坂道。
 春の桜、山から吹きつける夏の嵐、秋の紅葉……そして、堂々とした歴史ある学校での日々も過去のものになる。
 そうは言っても、しみじみと別離の寂しさに浸っている暇はなかった。家はそのまま置いておくにしろ、住んでいる三人全員が上京するのだからやはり準備は大変だ。
 徹は、思ったよりも逞しい様子だった。
 倉鹿を離れるのは寂しいだろうに、俺には何も言わず果敢に荷物をまとめ、東京の地図を眺めたりしているのだった。――お兄ちゃん、いるかちゃんの家とはちょっと離れちゃうんだね、と残念そうに呟きながら。
「春海ぼっちゃま、手荷物以外は業者さんが梱包してくれますからね」
 家政婦の藍おばさんについては、独立した息子さんが倉鹿に住んでいることもあり、わざわざ東京に来てもらうことには躊躇があった。本来なら息子さん一家と同居するなり何なり、のんびりと暮らせるはずなのだ。
 俺たちが上京ということになれば、おばさんは家政婦という仕事から身を引いてもおかしくない。親父が何と言おうと、無理やり連れて行くのだけは避けたかった。
 もう十分、彼女は俺たち兄弟の面倒を見てくれた。あの事故から早くも四年になろうとしている……
 母がいた時から家事を手伝いに来てくれていた女性。四年前からはこの家に住み込んで世話をしてくれた。家族ではないが、ずっと家族のように暮らしていた彼女と離れる覚悟はしていた。徹にもそれとなく言い含めておいた。
 しかし、去年の秋の段階でおばさんは承諾してくれたのだ。
 場所が変わるだけで、私の仕事は同じですよと。親父がどう彼女に話したのかは知らない。こんなことになった以上は、給料を最大限引き上げるぐらいの待遇でなければ許せないと思うが、親父のことだ。そこは抜かりなく事を進めているのだろう。まったく笑えない話だが、水面下での交渉については信頼が置けるからな。
 俺はともかく、徹のことを放っておけないというのが恐らく彼女の本心なのだろう。有難く、その言葉に甘えることにした。
 やはり、東京で新しい家政婦を雇うということになれば、即住み込みにできるはずもなく当分は通いになるだろうし――俺たちとうまくやって行けるかどうかも分からない。煩わしいことが増えてしまうのだ。
「うん。本を少しだけ、手荷物で持って行こうと思って」
「普通の引越しとは違いますからね。食器はほとんど全部置いていきますし、家具なんかも東京のお家に入りきらないものばかりですしねえ……」
「そうだね」
「私もよく知っている方が管理して下さるそうですし、留守の間もお家のことは心配ないですね。――もうすぐ、夕ご飯ですよ」
「あ、もうそんな時間か。どうりで腹が減ってるはずだ」
「すぐですから」
 おばさんは笑い、台所へ戻っていった。
 ひとまず、ここで終わりにしておこうと数冊の本を机に置いた。そこには昨日届いたばかりの封筒もあって、何とはなしに開いてみる。……冒頭だけはやけに力が入ったですます調と丁寧な字なのに、二枚目、三枚目になるとほぼ完全な口語になるのがおかしかった。

(……かもめとタクマ、同じ高校に決まってうれしそうです。かもめも、頭のいいタクマといっしょの高校に行きたいからって、すごく勉強してたからね。あたしたち、いとこで同じことやってるねって笑っちゃった。これで私立も公立も受験はぜんぶ終わって、あとは卒業式を待つだけになりました。
 倉鹿のみんなは元気ですか? 春海の引越しに合わせて、あたしも、一日だけでも倉鹿に帰れたらいいなあ……なんて思ってたんだけど、入学の準備も色々あるし、やっぱり無理みたい。高校生になる前に、みんなと会いたかったな。残念です。
 ええと……おととい、制服の採寸をしました。里見の制服って、セーラー服じゃないのは知ってたけど六段中みたいなブレザーとも違ってるんだね。けっこう珍しいねってかもめが言ってました。男子の制服も、やっぱり修学院の学ランと全然違っててさ。春海が着たら大人っぽく見えるだろうなあ)

 新しい制服。新しい生活への期待、興奮。
 そして倉鹿への望郷。いるかの手紙には、俺がこれから振り切ろうとしているものへの懐かしさが滲んでいた。
 今は寂しいだろう。あいつは転校生だったから入学式にも出ていないし、三年生の秋にはもう修学院の生徒でなくなっていた。あれほど学校中を騒がせて、賑やかにして、いつの間にか学校の中心だったのに――それでも、いるかはこの倉鹿修学院の卒業生にはなれない。
 今は東京でひとり、寂しくて仕方ないのだろう。でも、もう半月もすればその望郷の思いを俺が共有できるようになる。
 置いていくものは同じだから……

(……もちろん、六段中を卒業するのだって寂しいんだよ。かもめとだって、これでほんとに学校が別々になるし……でも……やっぱり、あたしの気持ちって六段中のみんなとは違ってるみたい。だって、三年間の半分……ちょうど半分は修学院にいたんだもん。うまく言えないんだけど……なんだか落ち着かなくて。だからね……早く)

 昨日からずっと、繰り返し同じところを読んでいる。

(……春海が来てくれたら、たぶん、そういうのもぜんぶ消えると思う。早く東京に来てね、待ってるからね。いるか)

 便箋の罫線の中には収まらず、右下の端ぎりぎりに書かれた名前。俺がこの名前を簡単に忘れることができたなら、今頃、倉鹿を離れようと考えもせず過ごしていたに違いない。――それとも、私中連会長に誘われるまま中学三年でさっさと上京していただろうか?
 そこでも要領良く優等生の称号を得て、中等部から高等部に上がってそれなりにうまくやっていたんだろうか。支えになるものが何も無い、上っ面だけの野心と自尊心でいっぱいになって。
 今が幸せかどうかなんて、自分では分からない。この先、東京で何があるのかだって予想はできない。けれど俺はもう、いるかと出会う前の俺に戻れなかった。
「お兄ちゃん、ご飯だよ!」
 食卓から、徹の呼ぶ声。
「すぐ行くよ」
 そう答えた俺の言葉は、徹ではなくて東京へ向かっていた。
 行くよ。今すぐ行く。
 もう歯止めなんて効くもんか。行くと言ったら、俺は必ずそうするからな。


 ◇


「見た目はほとんど変わらねえのに、なんか――がらん、って感じだな」
 進がそう感想を述べた。卒業式を一週間後に控えたある日、俺の家で。
「箪笥とか机とか、そのまんまなのにな」
 今日は、内輪だけの送別会だった。といっても堅苦しいことは何もない。飲み物、食べ物を持ち寄って、ただ騒いで別れを惜しむだけの。
「こんなでかい箪笥、東京には持って行けねえよ。机とか食器棚とかも……何しろ、向こうじゃマンション住まいだから」
「広いのか?」
「まあ、それなりには。三人全員に個室ってのが条件だし」
 一馬と兵衛が、ふむふむと頷いていた。
「そりゃあ、自分の部屋は要るよなあ……」
「そういう年頃だしな」
 進が何気なく言う。俺は聞かない振りをした。
「――でも、帰って来た時には便利じゃないか? 家具がほとんどそのままってのは」
 兵衛が、それとは知らずに助け舟を出してくれる。
「何日でも泊まれるだろ。夏休みとか」
「そうだな」
「夏は絶対帰って来いよ、おい」
「確約はできねえけど……野球で夏が塞がらない限りは、な」
 高校の三年間にしか挑戦できないことと言えば、やはり甲子園だろう。里見には『彼』がいて、四月からは高等部二年生になるはずだ。二年間は彼とチームメイトでいられるのだから、俺が野球を選ばない理由は無い。
「ああ、そうか。いよいよ高校野球か」
「おまえのことだから、半年後には甲子園だな」
 三人が顔を見合わせる。俺らも夏には応援で甲子園行きだな、と言いながら。
「さすがに、そんな甘くはねえだろ。今度から東京だろ、予選だけでも大変だぜ」
「……」
「……」
 俺たちは男同士だから、別れが近づいても泣いたりしない。
 もう十年にもなるだろうか。
 幼稚園からのつきあいで、小学生になると完全に固定化した四人になり、色々なスポーツを経験していく中でそれぞれの得意分野を見つけていった。揃って修学院に入学早々、鹿鳴会としても同志になった。今さら、俺が少しばかりこの町を離れることになっても――何年の留守になるのかは分からないが――今さら揺らぐような仲じゃない。
 少なくとも俺はそう信じている。
「……」
「黙り込むなよ。おまえら」
 沈黙に耐えられなくなったのは俺だった。
「黙ってねえで、何か言えよ」
 無理やり笑ってみせると、一馬が俺のコップにジュースを注いだ。
「……まあ、そのうち慣れるだろ。この家はそのままで、おまえと徹がいないっていうのにも」
「……」
「おまえには、晴れの門出だもんな。湿っぽい追い出し方はしねえよ。心配すんな」
「……」
「いるかと、うまくやるんだぜ」
 そこで三人はようやく、俺をからかうような表情になった。しんみりされるよりは、まだそっちの方が良かった。
「ああ」
 初春の午後、穏やかな倉鹿の陽射し。縁側からの眺め。ずっと日常だったこの景色。――俺もふざけた返事をしようと思ったが、結果的には馬鹿のように真面目な言葉しか出なかった。
「ああ。努力するよ」
「みんな、乾杯しよう」
 兵衛がまた、重々しく言ってコップを掲げた。
「春海の出発に、乾杯」
 その次は一馬。
「おまえの勇気に乾杯」
 最後は、進だった。
「――不滅の鹿鳴会に、乾杯!」
 俺たちは男だから、一時の別れに泣いたりなんかしないんだ。


 そして、卒業式の朝は春の青空に彩られていた。
 威容を誇る倉鹿修学院の正門、そこへ続く道。石の階段を上がるのもこれが最後だった。
 教師の席には、世話になった先生方が並んでいる。少し離れた特別な場所に座っているのは如月院長。――里見合格の報告以降、院長と一対一では話をしていなかった。今月に入ってから、三年生は式まで休みだったのでそれも当然だったのだが。
 前述の通り、ほぼすべての生徒は修学院高等部へ上がっていく。俺たち鹿鳴会の連中は務めがあるので毎年卒業式と入学式には出席していたが、特に感傷に満ちた雰囲気になることもない。
 最後だと思うのは、あくまでも俺個人の感情だ。卒業生の代表として述べる答辞に影響があってはならない。式次第は順調に進んでいき、在校生の送辞のあと、俺は答辞を読んだ。
 この三年間、先生方にはお世話になりました。――高等部でも修学院の名に恥じないよう勉学と武道の鍛錬を続け……古来からの精神を身に刻み……云々。長くなりすぎず、簡潔にまとめたつもりだった。悪い出来だとは思わなかったが、読み終わったあと俺が一礼し、席に着いたあと。
 少しずつ……少しずつ、ざわめきが広がっていった。何なんだ?
 このあと、院長の言葉があるはずだが……
 ざわめきが収まらない。困ったことに進も一馬も兵衛も同じクラスではなかったので、彼らの様子も伺えない。これはいったい、どうしたことだ?
 同じクラスではあるが、大川と日向は女子の列で、しかも俺より前の席なので表情が分からない。
 やがて、その奇妙な空気の中で院長が壇上に立った。
「――さて、諸君。君たちの言いたいことはよく分かる」
 何なんだ? 俺にはさっぱり、分からない。
「諸君、静粛に。院長のわしからも願うてみよう。再度の登壇を」
 ざわめきが止まった。院長は手を差し伸べた――卒業生の列に向かって。正確には、三年雪組の列に向かってだ。
「君の答辞を――倉鹿を離れる君の本当の言葉を聞きたいと、卒業生全員が待っておるよ。いや、ここにいる全員じゃろう。生徒も教師も……」
 これほどの人の波で、なぜまっすぐ一人だけの顔を射抜くことができるのだろう?
「母校修学院へ、ありのままの言葉を聞かせてやってほしい。山本春海」


 卒業式にすら親父は来ていない。忙しいのは事実だろうし、親父がいなくても支障はない。それはそれで構わなかったが……藍おばさんと徹は保護者の席だ。
……いや、そういう問題じゃない。親父がいてもいなくても関係ない。型通りの答辞でなくて? 倉鹿を離れる俺の言葉を……?
 それは俺だけの感情であって、皆を代表する言葉ではないはずだ。
 最後だ。これが最後だと思うのは俺だけの事情なんだ……

 再び、講堂中にざわめきが広がっていく。
 無意識に席を立ち、俺は如月院長の待つ壇上へ――後日、進に聞いたところでは、俺はまったく取り乱すこともなく堂々と顔を上げて、すべて想定内といった表情だったらしいが――歩き始めた。
 いつもいつも、あらゆる事態を考えて、対処法を頭に入れているはずだったのに。今日に限って何ひとつ計算していなかった。

 こんな経験は初めてだ。












 to be continued;
 REASON Ⅲ "Childhood's End"




























 じいちゃん「君の、ありのままの言葉を……」


            
 

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小林りり子
性別:
女性
自己紹介:
妄想を垂れ流す女。
当ブログは「いるかちゃんヨロシク」専用になりました。
2013.3/4、旧「愛のうた~」よりお引越し。

当ブログは、非公式の個人ブログです。
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