たとえば僕がかもめに、水着売り場に連れていかれたと仮定する。
僕は売り場を正視できない。
後ろめたい理由がある訳じゃないから別に挙動不審にはなったりしないけれど、やはり女の子の水着売り場なんて――まじまじと見つめる場所じゃないと思うんだ。
たいていの男は僕と同じだろう……そう、ごく普通の神経の男なら。
「これ可愛いじゃん、あんたに似合いそう」
「そう? かもめに似合うんじゃない?」
「あたしはこっちの青ボーダーがいいなあ」
「あたしはチェックも好き」
「花柄も可愛いけどねえ、見てる分には」
「あたし、水玉も好き」
従姉妹同士、同じ顔をして互いにあれが似合う、これがいいなどと話しているのを見るのは微笑ましい。
僕は少しばかり後ろに控えて、遠巻きに彼女たちを眺めるだけだがもう一人の彼は違う。腕組みをして難しい顔をして、まるで自分の服を吟味するが如くの眼差しだ。
あまりに堂々と女子の水着を正視しているものだから、まるで彼は――そうだな、まるで競合デパートを偵察しに来た服飾メーカーの手先のようにも見える……
「ねえタクマ、このチェックどう思う?」
「春海、この赤いボーダーどうかなあ?」
僕は無難な答えを返すだけだが、山本くんは恐ろしいほどきっぱりと言う。
「……二つに分かれてるのは、だめだ!」
さすがに彼も、この売り場でビキニと口にするのは憚られたのだろう。
しかしさっきから女子二人がああでもないこうでもないと物色しているのが「二つに分かれた」水着コーナーなので、いい加減にそこから離れてほしいと言いたげな口調だった。
いるかちゃんは口をとがらせながらも笑っている。彼の危惧をほとんど真面目に受け取っていない顔だ。
「じゃあこれは?」
と言いながら、いるかちゃんはまた別の一角に移動する。
「これ、どう? 巻きスカートがついてるよ。袖もあるし」
「それじゃ普通の服と変わらないじゃないかよ!」
僕は笑いをこらえるのに必死だった。
なんて面白い人なんだろう、山本くん……
僕としては、かもめが「二つに分かれている」水着なるものを着ても、それが彼女の好みなら口を出すつもりなんてまったくないけど……
彼が小声で、僕に同意を求めるように呟いた。
「下着とほとんど同じじゃないか、あれは」
「……」
確かにね、と僕は男同士だけの共感をもって頷いておいた。
気持ちは分かる、もちろん。
だけど面白い。知れば知るほど山本くんは単なる秀才じゃないことが分かって――あのいるかちゃんと思い思われるような人だから、そりゃ並大抵の人間じゃないに決まっているけど――本当に、傍から見てるのと中身が違いすぎるよ。
これは多分、かもめと僕に心を許してくれてるって証拠なんだろうね。
「それにしても、女の水着売り場だなんて身の置き所がない……土方くんだってそうだろ?」
最後にそう言われた時だけ、僕はうっと絶句した。
[22回]