この頃はやりの女の子
おしりの小さな女の子
こっちを向いてよ ハニー
だってなんだか だって、だってなんだもん
「……却下。趣旨が不透明すぎる」
「趣旨は、もちろん全校生徒に楽しんでもらうことよ。文化祭だもの、それが当たり前じゃないですか? 生徒会長」
「……」
「男子生徒に参加してもらおうと思ってるのよ。『こっちを向いてよ、ハニー』ってところでいっしょに歌ってもらうとか」
「……」
「まあ、みんな悪乗りしちゃって『こっちを向いてよ、いるか』になっても不思議じゃないけどねえ」
「坂本さん……」
山本くんは疲れたように呟いた。
「今さらだけど――どうしているかより先に、俺に企画を話すんだ?」
笑ってしまいそうな口元をそっと押さえて、あたしは難しい表情を作った。
いつも冷静な生徒会長が、いるかちゃんの話になった途端に珍しい反応をしてくれるから面白いの……とは、さすがに言えないわね。
「だって副会長をお借りする訳だから、一応、山本くんの許可が必要かと思って。いちいち聞かなくてもいいっておっしゃるなら、お言葉に甘えようかな?」
「生徒会役員は多忙につき、勝手に持っていかれるのは困る。坂本さんの判断は実に正しいよ」
素早く防御した上で、「しかし」と山本くんは言った。
「それにしたって、こんな内容じゃいるかが受けつけない」
「だけどねえ、せっかく『如月』さんなのに」
「……」
山本くんはさっきから書類を睨みつけている。そこに、いるかちゃんに歌ってほしい歌詞や、どんな扮装になるかってのが書かれている。
まあ、こういう歌詞じゃあね……そりゃ嫌だよねえ、山本くん。
それに、扮装もさすがにね……絶対見せたくないよねえ、山本くん。
これはあたしも、ふと思いついただけの企画だからあんまり本気でもない。実現する訳がないって分かってて口にするあたしも相当、山本くんからは面倒な相手だと思われているんだろうな。
「はい、分かりました。残念だけどこの企画も幻ね……また考えてこなきゃ」
「いるかは歌うのを嫌がるし、粘っても無駄だと思うけど」
「イベント提出の締め切りまで何とか粘ってみます、生徒会長」
「……」
憮然、という言葉がぴったりくる。
そんな表情の山本くんだった。
翌朝、いるかちゃんが尋ねてきた。
「ねえ晶。昨日、文化祭のことで生徒会室に来たんだっけ?」
「うん、また却下されちゃったけど」
「晶も懲りないねえ、あたしは歌わないって言ってんのにさあ」
「昨日のこと、山本くんに聞いたんだ? いるかちゃん」
「うん、春海がね……」
いるかちゃんは鞄から教科書を出しながら、言った。
「なんであんな歌とおまえの名字が関係あるんだって聞くから、主人公は如月さんって言うんだよって教えてあげたんだよ。知らなかったんだって、春海」
「あら、まあ」
「それでさ、春海までふざけちゃって」
大きなため息をつきながら、くすぐったそうに――そして、幸せそうに笑ういるかちゃんだった。
恋する女の子って、女から見ても眩しいものね……
「鼻歌でいいから歌ってくれって言うんだもん。『いやよ、見つめちゃいや』ってさ」
◇
後日談
「やっぱりなあ、2番のAメロがなあ……歌詞が合わねえだろ」
「ちょっとちょっと、先輩」
「でも、真実だろ。いるかには該当しない」
「じゃあ先輩はこっちの歌がお好みって訳なのね?」
「ハニーよりは過激じゃないだろ、魔女っ子の方が……まあ、ちょっと危ねえ部分もあるけどよ」
「じゃあ、ダメもとで歌詞を見せてくるわ」
「おう坂本、どうだった?」
「それがねえ、ハニーより過剰反応されちゃった……もちろん却下」
「まだマシな歌詞なのになあ? 面倒くせえ男だなあ、あいつ……」
子供だなんて思ったら大間違いよ 女の子
(→転校当初の「おチビさん」で該当)
ふたつの胸のふくらみは 何でもできる証拠なの
(→浴衣からはだけた肌で該当)
お化粧なんかはしなくても あなたはわたしにもう夢中
(→お化粧をしたマリアにクラッとしたウェストサイドで該当)
真珠の涙を浮かべたら 男の子なんていちころよ
(→東京行かないって叫んだらぼろぼろ泣かれたウェストサイドで該当)
「もうやめてくれ。俺のライフはゼロだ……」
[25回]