今までの距離が崩れてしまうのではないか? という懸念は、無い訳ではなかった。しかし、いま振り返ってみると、そんなちっぽけな恐怖は初めて知る熱情の前に跡形もなかった。
小さな境界線を越えても彼らは結局、二年目も「会長同士」のままだった──しかし彼女の方は、どうも怪しいと彼は回顧する。「恋人」よりは「友人」の比重の方が大きかったのではないか。自分はと言えば、もちろん彼女に胸を焦がし翻弄されていたとは言え、やはり選ぶに選べない曖昧な頃だったかもしれない。
学校にいる間は四六時中、友人たちに囲まれている。
クラブでは──剣道以外──別々で、いるかは春海より多く部を掛け持ちしているものだから、疲れ果てて「お腹すいた」と連呼しながら帰宅する放課後にも変化はない。
剣道大会のため上京した折ようやくそれらしき話をしたけれども、ほんの少しの意思表示ですら彼女には刺激になるようで、以前よりも動物めいて歯向かわれた。まったく意識していない訳ではないが、必要以上に踏み込まれることに困惑もしているらしい。
何も急ぐこともないと彼は思っていた。
これが中学生としては最後の一年で、卒業までにすべきことは山ほどある。それをやり遂げてから、高等部に進学してから……いつも隣にいるのだからと思っていた。
「終わり」があることを、彼は──そして彼女でさえ知らなかったのだから。
めまいで始まった春。
そして夏は、青い空と汽笛の響きと共に終わった。
彼は前を向き決意は秘めていたけれど、至らぬ自分に後悔は消えず、ただひたすらに重かった。
なぜ忘れていることができたのか。
今日そこで笑っているから、明日必ず居るとも限らないのに。自分はそれを嫌というほど知っていたはずなのに。
けれど、まだ遅くない。
彼はただ、前だけを向いていた。
何かが確かに終わりはしたが、まだ遅くないはずだ。
違う何かを始めることができるはずだ。
「変わらないよ。……あたし、何も」
受話器の向こうで、彼女が、ためらいを含みながら言う。
「だって、修学院にいたことはほんとなんだし。……みんなのこと、東京に戻ったからって忘れるわけないし、何も……」
「うん……」
「みんなと……」
「うん……」
「みんなと──春海と……終わってなんかない、よ。ずっと」
「そうだな。俺も考えてたんだ、有言実行しかないって」
再度、受話器の向こうで息を吸い込む音がした。
途切らせず繋げていくために、何ができるのかと問い続けた。
「もう決めた」
「……」
「電車が見えなくなっても、ずっと考えてた。俺は来年……」
すぐそばにいて距離に悩むことと、遠く離れて互いを深く思うこと。
そのどちらにも、きっと矛盾などないのだろう。
終わらない。終わりたくない、終わらせないと思うこと。それが新しい時代のはじまり。
[10回]