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こちらは、大昔の少女マンガ「いるかちゃんヨロシク」をお題とした二次創作ブログです。目指せ! 春海しあわせ計画。 ☆絵と文章:小林りり子☆ ★閲覧の際はご注意下さい★ 激しくポエム、激しく自家発電、激しく自分絵(らくがきレベル)。突然、時系列をワープする無節操さ、唐突なファンタジー設定、微妙にR18要素あり。
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 もうだめだ、と思った。
 理性とか理屈とか、建前なんか知ったことじゃない。
 もう、だめだ。


 今度こそ、もうだめだ。


 脱力して、座り込んだあいつの姿。
 あの大きな、時には言葉よりも多くのことを語る目が、俺の言葉を聞いてみるみる潤んで、それは涙になって頬を伝った。
 その目は、きっと、こう言ってた。


(ここにいるの?)
(どこにも行かないの?)
(本当に?……本当に?)


――そう、俺はどこにも行かないよ。
 だから、泣かないでくれ……


「……」
 何か言うよりも体が動いた。
 今、この瞬間に言わなければ。
 今、言わなきゃいつ言うっていうんだ?
 修学院の生徒のほとんど、そして教師たち大人や、但馬館の平賀がいたところで、それはもはや自制の理由にはならなかった。


「は……る……」
「ごめん」
 初めて、自分の意思を持って抱きしめた小さな体。
 俺の中にずっと潜んでいるもの。
 それとも、自分では何も知らずに、こいつが俺の心に打ち、刺して、深く深く埋めたもの。
 棘でも刃でも、もう何でもいい。抱きしめたいのはその切っ先だ。その棘の先端だ。
 だから、もういいよ。いっそ刺し殺せ。


「ごめん、心配させて」
「……」
 やわらかい。
 思ったよりずっと小さくて、やわらかい。
 やわらかくて温かい棘、そんなものがこの世にあるなんて知らなかったよ、俺は。……この瞬間まで。


 いるかは、言葉では返事はしなかったけれど、俺の背中にしがみついてきた。まだ泣いている。
 
 泣くなよ。
 さっき、私中連会長に言ったことは半分本当で、半分はただの言い訳なんだから。


 親父の力がどれほどのものなのか、ある程度は俺も知ってはいる。だけど今回の場合は、引っかかってどうしようもなかった。
 年が明けてからの突然の話、まのかにも既に伝わっていたぐらいだから、親父は水面下で――勝手に――話を進めていたのだろう。


 でも、俺は、今は……
 どうせ大人たちにはお見通しだろう。
 俺の辞退した理由、本当の本音なんて。
 そう、俺は……今は、とても考えられない。


 泣くな。
 おまえがいるから……ここを離れるなんて、今の俺には考えられないんだよ……


「……」
 いるかがふいに、しがみつく手の力を緩めようとした。顔を上げて、俺をじっと見た。やっと涙は止まったみたいだけど、目は真っ赤だ。
「ほんとに……東京……行かないの?」
「行かない」
「……」


 その場にもし誰もいなければ、もう絶対に、抱きしめる以上のことを強行していた自信がある。
 だけど今は――この衆人環視の状況もあることだし――気持ちを伝えるだけで精一杯でもあった。


 この数ヶ月、嫌でも自分の気持ちと対峙しなければならない状況に陥り、俺はずっと向かい合ってきた。
 建前を述べる自分に対して本音をぶつける自分もいて、動揺したり反発したりの繰り返し。


 親父の言いなりになるのは嫌だ。
 どうしてあの人は、俺の意見をまず聞いてこないんだ?
 勝手に里見に金を積んで、勝手に私中連、修学院とも話を進めて、当人である俺には事後報告だけなんて冗談じゃない。
 しかも、もし俺が東京に出るということになれば、徹まで巻き込んでしまう大ごとになる。親父が倉鹿に帰ってきて、家族で顔を合わせて相談すべきことだろう。


 俺の将来を考えてくれている、という気持ちは分かる。
 それ以外の思惑があったとしても……一生あの人は俺の父親なんだから、存在を否定したところで仕方がない。
 
 里見なら俺も気乗りしない訳がない、という計算は当然あったのだろう。確かに、それは当たっている。
 だけど、何度も言うけれど、順序が違うんだよ。
 まず息子の意見を、話を、望みを聞けって言ってんだ!


 まあ、これだけ派手に狼藉の限りを尽くしたんだ。私中連会長は愉快そうに笑い、如月院長も「生徒自身が辞退するのであれば、院長としてはどうしようもありませんな」と言った。


 あとは、大歓声。
 但馬館に、修学院生徒の大声が響いている。


 進、一馬、兵衛。我が友人ながら、おまえらって本当に良くできた奴らだよ。
 こういう時は、ただ黙って見てるんだな。
 俺といるかから一歩引いて、それでも、ほっとしたような表情になって。おまえらにも随分、心配をかけたんだろうな。
……ごめん、悪かったよ。
(あとで、平賀にもちょっとは謝っておかないとな)


 俺は、送られる方には――まだ――ならない。
 これから、三年生を見送る殊勝な生徒会長に戻るから。……さて、それで、これからどうする?
 この、とんでもない数の生徒たちを引率して修学院に戻って……男連中の汚れた衣装はまあいいとして、いるかの髪は乱れきっているし、そもそもこの、『マリア』の真っ赤な目はどうするんだ。目を冷やして、化粧し直して、それから……


 舞台はいったい、何時頃に始まるんだろう……?


 ◇


 そのあと、役を演じながら暴走した時、台本にも一切ないことを望んでしまった。その結果、見事に突き飛ばされた。


 実にめちゃくちゃな『ウェストサイド物語』だったが、一応俺は台本通りに普通に死に――生き返ってしまったが――普通に大歓声を受け、役目は終わった。


 親父にも、事の顛末は逐一報告されたらしい。
「息子がそう言うのであれば、今後も修学院で宜しくお願い致します」と院長に返事をしたということだった。
 徹はすっかり笑顔に戻り――
 今年の桜も、俺たちは倉鹿で見ることになる。


 だからさ。
 だから、今度こそ、触れていいだろ?


 ここには誰もいないから。
 
 それに、おまえがずっと鞄に忍ばせていた小さなチョコレート。どうせ甘いついでに、もっと甘い思いをしてもいいか?
 嫌って言わないでほしいんだ、いるか。


「ああああ、食べたあ……」
「うまいよ」
「うそだあ……」


 うまいって言ってんのに、まるで否定してほしいみたいな顔をしている。――さあ、俺の中で育つ一方の大きな棘、出て来いよ。
 もう怖くない。
 これからは、仲良く共存しなきゃいけないんだからな。
 よく覚えておけ、棘、茨、荊と呼ばれる刃たち。おまえの養分はこの俺だ。俺がおまえを放棄することのないように、せいぜい根を張っておけ。
 深く深く深く。
 長く長く、俺を突き破って空まで伸びるように。


 だけどその前に、俺といるかの間には、新しい芽が出るだろう。そしていつか花になる時が来るかもしれない。
――今、触れたら、きっとこの想いは蕾になる。


「あ、味見って……」
「今度は……」
 声が震えていたかもしれない。掠れていたかもしれない。でも、仕方ないよな。初めてなんだよ、俺もさ。
 進行がぎこちなくたって、ある意味じゃ当たり前だろ。だから、あんまり多くを要求しないでくれると有難い。


 春がこんなに眩しい季節だと思ったことは、今までなかった。
 晴れた青い空が、きれいだ。
 そして、大きな目……
 びっくりしたように見開かれた、可愛い目。


「今度は……突き飛ばしてくれるなよな」


 いまいましい棘は、消滅ではなく俺と共存することを選んだらしかった。


 初めて触れたくちびるは、とても甘い。
 柔らかくて、あたたかい……


 触れ合った場所から芽が生まれ、小さな小さな蕾になった。きっと……きっと、そうだと思う。


 でも、鋭利で物騒な感情と共存している以上、痛みを避けられないことは分かっていた。
 そう、やっぱり――俺の中の刃も、蕾が生まれるのと同時に、前よりもっと穿つように、鋭くなったんだ。


 それでも俺は、触れる。
 それでも俺は、求める。
 何があろうと絶対に譲らない。 


 痛いから、分かった。
 痛いから思い知ったんだよ。
 俺は本当に、こいつを……


 いるかを、大事に思っている。









 




 *****


 私の脳内での「春海の自覚シリーズ」完結編。
「棘」→「毒」→「蕾」という流れです。


 3巻ラストのあたりは以前もちょこっと書いたんですが(「微熱の頃」)、ウェストサイド騒動のことはぶっ飛ばして、ラストシーン直後だけに特化した文章でした。
 ということで、今回はそれよりはちょっと長めに。


 春海にとってはそれこそ初めての「春」が来たってことで、おめでとう、ありがとうって感じにしてみました。


 しかしタイトル通り、3巻ラスト時点では小さな蕾に過ぎない彼らの恋。これが開花するまで、いったい何年かかるのか……


(ただし、4巻冒頭ですっかり亭主ヅラになっている春海の脳内は、かなり春に侵食されていると推測されます)


 いるかが東京に帰るより先に、春海が遠く(東京)へ行ってしまうかもしれないというエピソードが存在したことによって、最終回の「きっと来年、東京の高校に行く」という春海の言葉に真実味と信憑性が付加される結果になりましたね。


 らくがきというかプロットというか
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小林りり子
性別:
女性
自己紹介:
妄想を垂れ流す女。
当ブログは「いるかちゃんヨロシク」専用になりました。
2013.3/4、旧「愛のうた~」よりお引越し。

当ブログは、非公式の個人ブログです。
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