[11回]
あたしってロマンティックじゃない、のかなあ。
突然、本当に突然に、黙ったまんまキスされるのが世の中の常識なのかなあ? 心臓に悪いから、お願いだからその前に、一言なんか言ってほしい。
でも、春海は相変わらず黙ったまんま、いきなり肩を引き寄せたり顔を近づけてくるから、あたしもちょっと身構えるようになってしまった……
そりゃあね。
黙ったままって言っても、春海は……その……乱暴なことをする人じゃないし……そういうのもきっと、ムードとかいうもののひとつだと……思うんだよね。
きっと、そうなんだよね。
いちいち驚くあたしが悪いんだ、きっと。
――でも、やっぱり、ちょっと怖いんだもん! こんなこと春海には言えないけど、それが例えば夜だったり人のいない場所だったりすると、怖い。
なんだか、その……
何て言えばいいのかな……
あたしも最近、人がいなさそうな場所だと春海と距離を取ることを覚えてしまった。だって、だって、そういう場所に行くとかなりの確率で近づいてくるんだから!
……当たり前なんだよね。
分かってるんだけど、心のどっかでは。
手をつなぎたいと思うのも、二人でいたいと思うのも、それから……キスしたいと……思うことも……きっと当たり前。
でもさあ、そんな、何か盗もうとか思ってる訳じゃないんだし――悪いことしようとしてる訳でもないでしょ?
聞いてくれたらいいのに。ねえ、ちゃんと聞いてよ。あたし、ちゃんと返事するのになあ……
ムードってものが壊れちゃうのかなあ……? あたし、そういうのがよく分からないって言うか、分かってても居たたまれない時があるんだよね。
とりあえず、何か合図してもらおうかな。合図を決めてほしいな、うん。
でも、問題は、あたしが春海にこれをどう説明すればいいのか、まったく方法が分かんないってこと。
言えるはずないじゃん。
春海、今度キスする時は、何か合図してね……なんて!
まるで、まるで、まるで。
今キスしてほしいって言ってるみたいで! そんな恥ずかしいこと言えないじゃん!
それに、春海が真面目に取り合ってくれるかどうかも怪しい。
おまえバカだなあとか、笑ってごまかされるような気が――すごく――する!
ああ、どうしよう。
どうしよう、ねえ。
どんなことにもルールはある。スポーツにだって生徒会運営にだって、それから恋にだって……
そう、問題はそこにあるの。
恋には、スポーツのような明確なルールが存在しない。誰にでも適応される、公平なルールってものがない。
あたしと春海次第で、ルールは決まる。そして、いつでもどこでも、変わるものなんだ。……きっとね。
ああ、本当にどうしよう。
どうしたらいいの? 泥棒さん!