祭りのあと、という言葉をそのまま風景に描いたような――
九月の日暮れは早くなる。
つい、ひと月前はあれほど空は輝かしく眩しく、太陽の時間はいつまでも終わらないとさえ思われた。けれど今、季節は確実に巡っていく。
朝や夜、肌寒いと思う日が増えた。
風の匂いも違う。
夏の花はゆっくりと枯れていき、冬の芽生えを感じる九月。
振り返っても、求める姿はそこにない。
彼はため息をつく。そして、そんな自分を鼓舞するように顔を上げて再び歩き出すのだ。
(もう九月だから、学校から早く帰ってくるのよ。秋になるとすぐ暗くなっちゃうんだから)
(でも、道場には通わなきゃ)
(もちろんそれはいいの。だけど、夏が終わったら日暮れが早いからね。――秋の日はつるべ落としって言うぐらい)
(ふうん……お母さんの好きな芙蓉って、秋の花だよね)
(そうよ。夏の終わり頃から咲いてはいるけどね)
夏が長かった分だけ、早い夕暮れは寂しさをより強く感じさせる。
いつも周囲を巻き込んで、そして自分からも飛び込むような性格だった。いつも賑やかで騒がしかった。だからこそ、ひとりで寂しさを背負い行ってしまった彼女が悲しかった。
(夏もいいけど、あたし秋も大好き。やっぱり食欲の秋だもんね)
(おまえは本当に、一年中食うことばっかりだなあ)
(倉鹿は和菓子がおいしいとこだから、栗とかさつまいものお菓子が楽しみなんだ。ほら、先週お月見だったでしょ? お団子もおいしかった)
(……そう言えば徹がおまえに、うちに遊びに来てって言ってたな……じゃあ今から来るか? ちょうど藍おばさんが昨日、栗ようかんと栗もなか買ってたし……)
(わあ、行く行く! どっちも大好き!)
「秋の日はつるべ落とし。あっという間に暗くなる……」
思い出を手繰っているうちに、もう町は夜の色に染まり始めていた。
春海は足早に家路をたどる。
秋の和菓子は何も倉鹿だけのものではないのだから、東京にいる彼女にとって去年と同じ――食欲の秋であればいいと彼は思う。
もう心を決めたのだ。今年だけだ、寂しいのは。
秋風の冷たさが身に沁みるのは。
そう言い聞かせてもやはり、秋の日暮れ時は物悲しい……
「ただいま」
「お帰りなさい、春海ぼっちゃま。お手紙が届いてますよ」
「……」
玄関先に置いてある東京からの手紙、その宛名面の文字を見て春海は微笑んだ。
歩き疲れた果てに、やっと家のともしびを見つけた迷子のように。
[26回]